『CamicieＸrosse!!』へようこそ！｜リアクション

『CamicieＸrosse!!』へようこそ！

「両親は急な用事で揃って長野の親類の元へ。帰宅は明日。……さて。夕食はどうしようかしら」
　姉の仙藤紫の呟きに、妹の仙藤蒼がはいはいはーいと手を挙げた。
「きょうは暑いから、外へ食べに行こうよ！」
「……暑いと、家で食べたくなるものじゃない？」
　素朴な疑問を口にする。
「暑いと料理するの面倒じゃない。もっとも、料理するのお姉ちゃんだから、そりゃー私は関係ないけど？」
　ニシシっと笑う蒼に、彼女が全く手伝う気がないと知った紫は軽く息を吐き。
「そうね。じゃあ外に出掛けましょうか」
　とソファのハンドバッグを持ち上げた。

　姉妹で並んで歩く。ボーイッシュな服装でありながらも可憐な印象を与える蒼と、指で髪を梳くなど何気ないしぐさの一つ一つから知的さがにじみ出ているクールビューティーな紫が揃って歩くと、人目を引かずにいられない。
　だが当人たちからすれば、すれ違う者たちが振り返るのはもう当たり前すぎて、気にするほどのものではなかった。
「どこに行くか、あてはあるの？」
「お姉ちゃんは？　何か食べたい物ある？」
「……特には。私はどこでもいいわ」
「そう？　じゃあ私、『CamicieＸrosse!!』がいいな」
「カミチエ……？」
「うん。前に食べに行ったとき、すっごくおいしかったじゃない。覚えてない？」
「……イタリアンレストラン？　ピザとパスタの」
「そうそう、そこ！
　ちょっと値段が張っちゃうかもだけど、それに見合う味だし。せっかく外で食べるんなら、いいものがいいじゃない」
　話を聞いているうちに、紫もだんだん思い出してくる。
「じゃあそこにしましょう。確か、星ヶ丘だったかしら」
　２人は駅へ向かった。

　ちょうど夕食時ということもあって、店は混んでいた。
「Ciao！　カミチエ・ロセにようこそ♪」
　入口をくぐったとたん、愛想のいい店員・まゆらの出迎えを受ける。彼女に案内されてついた席で、紫はさっそくディナーメニューを開いた。
　紫が選んだのは『モルタデッラとトマトのパスタ』『あさりとムール貝の漁師風リゾット』『アイスコーヒー』『生ハムとコーンのシーザーサラダ』の４つ。
　紫の倍は時間をかけて、蒼がじっくり選んだのは『アルフレードラザニア』『リボルバー』『イカとエビのシーフードサラダ』『骨抜きチキン』それに『アイスティー』と『スカーフェイスのジェラート』だった。
　そんなに？　と紫が眉を軽く寄せて蒼を見つめる。
　商品を知るまゆらも聞いていて内心驚いていただろうが、おくびにも出さず。
「こちらはお料理と一緒にお持ちしますか。それとも食後にします？」
「食後でお願いします」
「分かりました。それでは繰り返させていただきます」
　注文内容を復唱すると、まゆらはテーブルを離れた。
「……全部食べられるの？」
「うん」
「きっとすごい量よ。私は手伝わないから」
「へーきへーき」
　蒼は強気だ。そして話題を進路の話へ変えた。蒼は来年高校受験で、寝子高を受験すると決めている。あとはどの学科にするか、決めるだけだ。それから互いの学校での話に話題は流れて、今はやりのゲームの話とか、その実況中継にいきなり出演させられたときのこととか、とりとめなく話しているうちに、料理が運ばれてきた。
「ねえねえ、お姉ちゃん。ここの店員の制服、すっごくない？　お姉ちゃんが着たら似合いそう」
「何言ってるの。ばか言ってないで、食べなさい」
　紫にたしなめられ、蒼はぺろっと舌を出すとフォークを手に取った。
「いただきます！」
　

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