『CamicieＸrosse!!』へようこそ！｜リアクション

『CamicieＸrosse!!』へようこそ！

　午後16時。
　『若きカリスマオーナー』として特集記事を組みたいとのことで、ビジネス誌の記者とカメラマンがロレッタを訪ねてやって来た。
　ロレッタは椅子に腰掛け、なぜこの島を選んだか、店を開店するまでの経緯や今後の展望、野心を熱意あふれる言葉で堂々と語る。
　１時間後、取材を終えた記者たちを見送ったロレッタは、腕を上に伸ばして大きく伸びをすると、店内を振り向いた。
「みんな、ディナータイムへの移行準備ヨ。手早くすませちゃいまショ」

「ただいまー！」
　玄関からアネット・ガトパルドが飛び込んだ。
　カバンを放り投げ、そのまま走り抜けるようにして熱気こもった厨房へ飛び込む。
「やあ、アネットちゃん」
　ウィリアムが巨大な中華鍋を揺すりながら、歓迎の笑みを浮かべた。
　強い火力。鍋から上がる湯気は容赦なく彼の顔面を覆っていて、汗だくにもかかわらず、アネットを見る笑顔は明るい。
「Hi！　キャップ、結構お店入ってる？」
「超満員だヨ！　嬉しいネ」
「あははっ！　そうだね！　でもこのアネットが来たからには大丈夫！　ピザならまかせてよ★」
　笑って手の消毒をすませ、壁のエプロンを掴むとさっそくピザ窯へ向かった。
　忙しくピザに材料を並べているバイトの女の子に、「Hey！　お待たせ！」とハイタッチをする。そしてさっそく並んだ調味料の量を確認して、足りない物は棚から補充した。
「トマトとか、野菜も足りないね。
　裏の冷蔵庫から取ってくる！」
「助かるわ、お願い」
　カゴを手に業務用冷蔵庫へ向かう途中、表の店の様子がちらりと視界に入った。
　母親ロレッタが忙しくテーブルとカウンターの間を往復する姿が見える。もうずっとそうしているのだろう、顔の横を汗が伝っているが、満面の笑顔は崩れない。きっと、閉店して店のライトが消えるまで、あの笑顔は消えないだろう。
　ううん、お店の人たちが帰って、店に１人になるまでかも。
「おつかれさま……ママ」
　普段だったら決して口にしない言葉が自然と口をつく。
　それから、アネットは背を向けて業務用冷蔵庫からカゴいっぱいの野菜を取り出すと、厨房へ戻った。
　ママに負けるもんか。

　そんなアネットの様子に、ロレッタも気付いていた。
「アニーも来たならこっちは大丈夫よネ」
　今夜はなかなか昼の熱が引かず、蒸し暑くて。出歩くことを嫌がる人が多いのか、宅配の注文が多かった。宅配のバイトの子たちはフル回転で、戻ってきてはすぐに店を飛び出していく。
　客が少ない夕方はウィリアムに行ってもらったりもしたが、ディナータイムは無理だ。
（とすれば、ワタシが動かないワケにはいかないわよネ）
　厨房へ続くドアを開くと、戦場のごとき騒々しさだった。
「マルガリータ1、シチリアン2、イカとエビのシーフードサラダ3――うん、全部ありますデース。
　糸目さん、ラップが終わったらそちらの注文書と一緒にまとめて宅配ボックスへ――」
「これが配達先ネ？」
「店長！？」
　驚く露草や坊主の前、ロレッタは注文書に書かれた住所と地図にざっと目を通すと「了解」と呟き、ボックスを持ち上げる。
「行ってくるワネ♪」
　ヘルメットを脇に抱えて外に出たロレッタは、愛車にまたがると颯爽と夜の街へ滑り出た。
　

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