【星幽塔】第一階層　水面光る城下町｜リアクション

【星幽塔】第一階層　水面光る城下町

　前髪ぱっつんのかわいい女子高生、水上桜は、星幽塔でのことは夢の中の出来事だと思っています。
「まるでヴェネツィアみたい」
　水面や空を舞うクラゲを眺めて、桜は歓声をあげました。
「ものすごい透明度で綺麗だし、空にはクラゲが星空を舞ってるし、見ていても飽きないというか……」
　凄くいいものを見たような、得した気分です。
「ゴンドラで遊覧ツアー、いかがですかー」
　そこへやってきた客引きのおじさんの声に、桜は反応しました。
「あ、参加します！」
「ボクもー！　まずは、おふねだよねー！」
（下のほうから声がする？）
　不思議に思った桜が目線を落としてみるとそこには、キャスケット帽をかぶったクポラッチョ・ププル。
　身長45cm、ころころ太った、垂れた耳のうさぎロップイヤーのような姿をした小さな男の子でした。
「お姉さんもおふねにのるの？　ボク、町のたんけんにいくんだよ！　キラキラワクワクいっぱいあるかな？」
「うん、楽しそうだね」
　もふもふのぬいぐるみのような姿のクポラッチョに、桜は思わず笑顔になりました。

　いよいよゴンドラに乗り込みます。
「まちが、いつもとちがうね。たのしいね、おもしろいね！」
　天真爛漫なクポラッチョは、乗り出して水面を叩いて遊んだり、遠く水面がキラキラしているのに見入ったり。
　一方桜の脳裏には、色々とアクセサリーのアイディアが次から次へと湧き出していました。
（空に浮かぶクラゲと星をモチーフにして……ああ、手元に紙とかあったら描き止めているのに）
　クポラッチョの声を聞きながら、ゴンドラに吹き付ける風もとても心地よくて、しばらくすると桜はついうとうとしそうになっていました。
（なんかこうしているだけで癒し効果があるというか、ずっとこうしてボーっとしていたいというか……）
　しかし、はしゃぐクポラッチョに、一緒に乗り合わせたおじさんが声をかけました。
「おい、坊主……」
　ちょっと怖そうなおじさんだったので。
「あぅぅ、ばたばたしてるとおこられちゃうかな。おこられるのはイヤなんだよ」
　しゅん、と垂れた耳を一層垂れさせたクポラッチョ。
「暴れて落ちねえように気をつけろよ」
　意外と優しいおじさんだったようです。
「わかったんだよー。あ、おさかなさんにくらげさんなんだよ。おーい、おーい！」
　感情の切り替えは早いクポラッチョ、さっき凹んだのが嘘のように空を泳ぐ生き物を見つけてブンブン手を振ります。
「あ！　たーのしいねっ、たーのしいね！」
「あ、危ない……」
　夢中で船から転落しそうになる勢いのクポラッチョに、桜は思わず手を伸ばし。
　ドボーン！
　そのまま落ちたのは桜のほうでした。
　ブクブク……
　急に水中に落ち、泡を吐きだしながらも桜は体勢を立て直します。
（綺麗……）
　一旦浮かびあがり息継ぎしたものの、桜はこのまま上がるのがもったいなくなりました。
「お姉さん、大丈夫？　僕につかまって」
　心配そうに手を出す小さなクポラッチョに、桜は苦笑交じりの笑顔を向けます。
「大丈夫、このまま泳ぐから」
　何だかもう心がすっかり浮き立って楽しくて仕方がなくなった桜でした。

このページにイラストを設定する