猫又川でホタル狩り｜リアクション

猫又川でホタル狩り

☆姉妹の昼と夜

　大学一年生の仙藤紫と中学三年の仙藤蒼は、姉妹揃って清掃ボランティアに参加していた。
「去年参加したときはかなり汚れていたけれど、今年は去年ほどひどくはないわね」
　セミロングの髪の紫は、汚れてもいい服装と軍手、それにタオルを装備している。
　アシンメトリーの短髪、寝子中のジャージを着用し長靴を履いた蒼は言う。
「去年のことは知らないけど、けっこうゴミあるよ」
「そうね。去年もいろんなものが捨てられて閉口したけど、今年も……空き缶にペットボトル、傘の残骸もあるわ、怪我しないように気をつけてね」
　軍手をしているとはいえ破片やらで手を切らぬように注意しながら、ゴミを確実に回収していく蒼と紫は、初夏の日差しの中ですでに汗ばんでいる。
「二人だと作業がはかどるわね」
　紫は、真面目に清掃をする蒼を、頼もしく思いながら手を動かしている。
「うん、お姉ちゃんが一緒だと飽きないよ」
　ゲーム好きの蒼は、ゴミ拾いは地道な経験値稼ぎにも似ているかもしれないと思う。
　河原が綺麗になってくるのが判るので、それを励みにさらに作業を進めていった。
　周囲ではボランティアの『ホタルを守る会』の人たちがゴミ拾いをしている。
　ほとんどがお年寄りだ。
　腰を曲げて、足元がおぼつかないおじいさんもいる。
「皆さんおつかれさまでしゅ。暑いのでくれぐれも熱中症に気をつけて。お茶がありますから水分をしっかり摂ってくだしゃい」
　会長がそう言ってお茶入りのペットボトルの箱を持ち上げようとするところに、蒼が駆け寄った。
「私が持つから、休んでいてください」
「しゅまんですのう」
　紫もお茶を配りながら、お年寄りたちに優しく声をかける。
「日差しがきついので、無理しないで休憩してくださいね」
「ありがとう、そうさせてもらいますよ」
　４歳違いの美人姉妹の頑張りに、お年寄りたちも嬉しそうだ。
「河原が綺麗になってくると、やる気がでるよね」
「夜までに確実に掃除を進めて、綺麗にしていきたいわね」

　川の掃除を終えた紫と蒼は旧市街の一戸建ての家に戻り、お風呂に入って汗を流してから服を着替えた。
「川が綺麗になって良かったわね」
「うん、夜の蛍が楽しみ」

　やがて日が暮れ、二人は夕食を取ってから再び河原へ向かった。
　あの暑さが嘘のように涼しい風が吹いている。
　昼と同じ場所のはずなのに、月明かりの中ふぅわりとほのかな光が舞い飛ぶ様子は幻想的だった。
　満ち足りた思いで、蒼は蛍の光を追いながらはしゃぐ。
「見て見て、蛍がこんなに綺麗だよ！」
「昼間の苦労が報われた気分ね」　
　そう言いながら紫は、すっかりはしゃいでいる妹の様子に瞳を細める。
　何匹かの蛍が自分たちの周りを舞っている。
「あら、綺麗」
　呟いた紫だが、次の瞬間眉を顰める。
「お姉ちゃん、どうしたの？」
　蒼が姉の様子に気づいた。
　紫は周りを気にしながら蒼の耳元で囁いた。
「蛍がスカートの中に……」
　見れば確かに、紫のワンピースの中に淡い光が舞っていた。
　蒼は、少し慌てている様子の姉の手を引いた。
「お姉ちゃん、こっち」
　蒼はさりげなく紫を人目のつかない場所へ連れて行き、スカートを持ち上げて蛍を追い出した。
「よかった」
　ほっとする紫を見て、蒼は少し笑ってしまった。
「お姉ちゃんでも、慌てることがあるんだ」
「何言ってるのよ……ありがとう、蒼」
　世話をするのは自分の役目だと思っていたけれど。
　いつのまにか成長している妹の姿が嬉しかった。
　

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