梅雨のずぶ濡れハプニング｜リアクション

梅雨のずぶ濡れハプニング

　さて。
　満を持してこの方をご紹介することにしよう。
　右目を黒髪で隠した妖艶美形（チャームポイントはプリ尻）なアケーチ・タッマーキ氏（801歳）である。
　明智と名乗る彼は、本日は黒いスーツのジャケットを脱いで初夏モードであった。
　彼の良く整った鼻筋に、雨粒が一つ落ちる。
　見上げる間に雨は強くなり、アケーチを打つ鞭のように彼の体に降り注ぐ。
「……おや、雨ですか。しかも嗚呼、なんと激しい雨……！」
　一見、紳士風の明智は、突然の土砂降りに天に向かって両手を広げ、官能に打ち震える。
「私の身を清めようとしているとしか思えぬこの雨粒たち……！　さぁ、私は全てを受け入れますよ、私の身体に存分に降り注いでください、さぁ……ッ！」
　歓喜の声を上げ、スキップ交じり。
　自他ともに認めるド変態な彼は、とてもご機嫌だ。
　気づけば彼の周りには、遠巻きに人垣ができていた。
「……おや、いつの間にか観衆の方々が……！」
　無数の視線はアケーチにとってはご褒美そのもの。
　両手で上半身を抱きしめ、ああっと頬を染め上げる。
「熱く激しく、それでいて蔑むような眼差しに私、興奮してたまりません……！」
　アケーチはがばっと両腕を拡げた。
　濡れ透けシャツが張り付いて、プリティなちくびちゃんがきゅっぴりんとシャツを押し上げ主張していた。
「さぁ、私の濡れ透けをご堪能ください、ふふ……！」
　一歩前に出れば、ギャラリーの人々はびくっとして一歩退く。
　しかしギャラリーのみなさん、どうしてかアケーチから目を逸らすことができない。
　視線を受けて、アケーチは体の奥から震えるようなリビドーが湧き上がってくるのを感じた。
「あぁ、濡れ透けでは足りませんか？　ならばぜひ、もっと見てください、私の全てを……！」
　
　か　ん　ち　が　い　で　す　！

　ギャラリーのみなさんは、心の中で一斉にそう叫んだが、アケーチには届かない！
　アケーチはおもむろにネクタイを緩め、ひらり！
　シャツのボタンを焦らすように一つずつ外し、はらり！
「ふ、ふふ、びしょ濡れでいいじゃない、と思う日もありますよね、ふふ……！」
　ストリッパーよろしく一枚一枚衣服を脱ぎ捨て、上半身裸になると、とうとうベルトに手を掛ける。
「天の恵みに乾ッ杯ッ……！」
　雨の中に黒いスラックスを投げ捨て、ギリシャ彫刻のようなポーズを取るアケーチの表情は――、
「恍惚ッ！！！」
　読者諸兄、安心してほしい。
　アケーチはまだ全裸じゃない！
　大事なあそこは、可愛いクマさんパンツに隠されている！
「あぁ、流石に最後のひとひらは残させていただきます、全裸になるとおまわりさんという組織に連行されることを学びましたので、ふふ……！」
　ギャラリーの後ろの方で、おまわりさーん、と声がする。
「おや、どうしたことでしょう？　クマさんパンツ一枚でも、おまわりさんという組織は許さないのですか？」
　このままでは紺色の制服の強面の男たちに連行されてしまう。
　それもまた一興だが、雨の中のこの快感、もうしばし味わいたい気持ちの方が勝ってアケーチは走り出した。
「おや、あそこにもスケスケ仲間さんが……！！　ふふ、バックダンサーとして参加させていただきましょうか、ふふ……！」

　突然の雨に、日傘をさして歩いていたマーガレット・ライカーは、目の前をスキップ交じりに疾走していくクマさんパンツ一丁の美紳士に、目を擦った。ちょうど、ＢＬ本の執筆に向けて妄想を膨らませながら歩いていたので、幻覚でも見たのかと思ったが、違った。クマさんパンツ一丁の踊る美紳士は、確かに現実のものである。
　踊る美紳士の行く手には人が集まっていて、人の輪の中に、四人の男女が濡れ透けで佇んでいる。
　マーガレットは四人の中のひとりが見知った顔だったので、もう一度目を擦ることになった。
「響君……頬を赤らめて何をやっているんでしょう？　何かのチャンレジでしょうか？」

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