【中間テスト】明日のためにペンを持て！｜リアクション

【中間テスト】明日のためにペンを持て！

◆四日目一限目：音楽
もしかしたら、1年の期末より成績が上がっているかもしれない。
音楽のテストを解き終えて、羽生碧南はそんな予感を胸に抱いた。
なにせ、テスト前日に無限ループしたおかげで、勉強はこのうえないほどにガッツリできている。
どれくらいガッツリかと言えば、苦手克服中だった数学のテストすら、いい感じでガンガン解けちゃったくらいだ。
これはもう自己ベストまちがいなし……などと、見直している最中、ふとこんな場面が脳裏をよぎった。
テストの成績が上がり、家庭教師を務める大学生に褒めてもらう碧南。
もちろん現実には、碧南にそんな家庭教師はついちゃいない。
じゃあ一体どこからその家庭教師が出てきたのかと言えば、乙女ゲーム的なアレからだ。
で、褒めてもらった碧南は、思わずぽっと頬を赤らめてしまう。
そんな彼女の様子に、家庭教師の大学生は優しげに笑ってみせる。
それから彼は言うのだ。
『今度の週末、出かけない？』
……なんて話になって、もしかしてフラグが立ったかも。ルート入っちゃったかも！？　と、浮かれ気分はとどまるところを知らず。
次々と脳裏をよぎるシチュエーション、めくるめくデートシーン。
そして最後のシーンの舞台は、寝子島を一望するオシャレなレストラン。
頬を染めながら、爆発しそうな心臓の鼓動を抑えながら、碧南は告白を口にする。
『あのっ、私！　せ、先生のことが……！』
『ありがとう、俺もだよ』
ふっと優しく微笑む先生。そして夜景をバックに二人は幸せなキスを――。
――というところまで、脳内シアターでは妄想余裕でした。
そんなわけだから、テスト中だというのに、碧南の顔はデレデレしまくりの緩みまくり。
周りの生徒の、
（いつものアレが始まった）
と言わんばかりの視線も何のその。
どこまでも幸せそうな碧南であった。

◆四日目、テスト終了後。
最後の試験科目の体育は、大した時間もかけずに解答し終わった。
そうして、椎井莉鳥の――そして生徒たちの中間テストは全て終わった。
解放感に満ちた空気の中、訪れる早い昼休み。
莉鳥は食堂へと向かうことにした。
「えっ、落書きがデスマッチ……？」
食堂を通りがかった時、青山絢がそんなことを言っているのが聞こえた。
（そんなことあったんだ）
へえ、と思いはするものの。それだけだ。
テスト期間の間、なんだか妙に周りが騒がしかったことは、莉鳥も感じてはいた。
けれど、集中していたこともあって、何が起きているのかまでは全く気付けなかった。
テストに集中ていたら、もれいびですら気付かないということは、そう大した騒動でもなかったのだろう。
適当な空き席を見つけ、黙々と日替わり定食Bを食べ始める莉鳥。
その向かいに、誰かが座った。
見なくとも、気配だけで誰かはわかる。
だからといって、こちらから反応しようと思わなかった。
「椎井、空いてるか？」
その誰か―― 北里雅樹が問う。
「誰も座ってないなら空いてるんじゃない」
会話の始まりは、そんなどこかズレたやりとりからだった。
「テスト、そっちはどうだった」
「五教科は80点いってるんじゃない」
そっちは、とは言わない。
聞かれなくても、雅樹は言う。
「文系科目は集中して勉強したし、俺も多分それくらいだ」
「そう」
しばし、沈黙。
「それ何食べてるんだ？」
定食Bを指差す雅樹に、
「お昼ご飯」
と莉鳥。
確かに、お昼ご飯なのは間違っちゃあいないが。
そんな会話が、しばらく続いた。

これも、来年で終わるのだろう。

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