なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

　颯爽と自転車を駆るのは、八神修。
　手入れの行き届いたシャーシが、陽光を浴びてきらめく。
　その買い物かごには、ビニール袋に入った草が、瞳をきらめかせている。

　――街が見えるかい？
　修の問いかけに「うん！」と力強く返事を返す草。

「――喋れるのか？」
　本屋での買い物を済ませた直後、聞き慣れない声に話しかけられ、修は物陰に花の姿を認めた。
「やっと見つけてくれる人がいた！」嬉しそうに身をよじる草。
「物陰に咲いているから、目立たないんだろう」
「僕、人間と話したかったんだ。いろいろ教えてよ！」
「物怖じしないな」
「それ、本だね！　人間は本を読むんだよね！　なんて本なの？」
「これはエディブルフラワー、食用野草の本だ。よい本だよ」
「･･････僕は苦くておいしくないよ」
「いやいや、食べないよ」修は笑って答える。「そうだな･･････人間のことを知らない君に人間のことを教えてあげよう」
「･･････？」
「人間は、とても強引で野蛮な生き物なんだ。だから」
そう言って、草を根元から土ごとすくい上げ、ビニール袋の中に入れてしまう。
「こういうこともしてしまう」
「ひゃあ！」
「人間世界を知りたいって言ったね。百聞は一見に如かずだ。いくぞ！」
草を自転車のかごに入れて、修はいきなりトップスピードで街角を走り始める。

「すごいすごい！　人間の世界ってすごいね！」
　無邪気に笑う草に、修も笑顔で答える。
「なんだか、町の様子が妙だな。

「･･････？」
　予感にとらわれて、鴻上彰尋は空を見上げた。
　誰かのそばに寄り添っていなければいけないような、そんな思いが湧き上がってくる。
「誰かのそばに、ずっといる」というのは、彰尋の本質的なあり方そのものだった。
　悩んでいたり、苦しんでいたりするとき、相手を助けたい。
　けれども、自分にできることも限られている。
　ならば、じっと相手のそばにいて、相手を気遣い続ける。
　辛抱強く、諦めず、そばにいる。
「寄り添う」ことができるのが、彼の一番の強さだった。

　――誰か、そばにいることが必要な人がいるのか？
　彰尋は、あたりを見回す。
　昼下がりの街角は、皆がお互いの世界に沈着しており、だれの助けも必要としないようだ。
　自然、彰尋の足取りが速くなる。

　誰かが、自分を必要としている。
　自分に近しい誰かが。

「･･････」

彼の目に飛び込んだのは、およそ普通じゃない状態の七夜あおい。
周囲の様子など眼に入らないで、病的にふらふらと歩く。
「――！」
異変を感じ、走り寄ろうとする彰尋。

だが、その姿が、一瞬大きくかしぐ。

――!