なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

「９９７･･･９９８･･･９９９･･･」
　全身を汗みずくにして、なんとかスクワットを終える武道。
「まだまだっ！　つぎはウサギ跳び！」
「さ、サー・イエッサー！」
　慌ててかがみ込みつつも、冷静に状況を把握する。
（･･････とりあえず、まだギリ耐えられるけど･･････）
　次第に大きくなる重力負荷。
　ハードなトレーニングまでなかなか自分をおいこむ機会はない。
　割合と楽しんで、鬼軍曹の理不尽なシゴキに耐えてきた武道だったが。
（さすがに、この重力は危険だな･･････）
　ほかの人に被害が及ぶ前に、なんとかしなければならない。
　あのシダ植物、あれが多分、元凶。

（今すぐ抜くのは、かわいそうだけど）
　あと３メートル。
　ウサギ跳びの要領で跳躍すれば、すぐだ。
（痛くないように、因果を含めてささっと）

「お見通しだ！　馬鹿者め！」
「ぬぐわっ！」
　跳躍が鉄の天井に阻まれたように、押さえつけられる。
　そのまま這いつくばる武道。
　匍匐前進のような姿勢。
「踵をあげた瞬間から死ぬ！　スナイパーの的になりたくなかったら体を低くしろ！」
　圧倒的な重力係数。
　白色矮星の地表では、圧縮された原子がすさまじい重量をもって、通常の形状をとることも難しい重力を作るといわれている。
　そんなことを思い出す。
　全身の内蔵が重い。
　体が鉄のワイヤーでがんじがらめにされたようだ。
　歯を食いしばっても、首すら容易にあがらない。

「『おも草』のタイプ鬼軍草です！」
　突如現れた椿が解説する。
　なんとか説得して、理不尽なシゴキをやめてもらおうとする椿を、武道は制する。
　自分がシゴキを課せられているのだ。
　自分が、やり遂げなければならない。

（あのシダ植物は、動かない）

　だとすれば、自分が抜くことを望んでいる。
　だとすれば、自分はそれにこたえなければならない。
　あと２メートル。
　あと１メートル。

「まだまだぁ！」
「うぐ！」
　地面に再度たたきつけられる武道。
「さらに、重くしたな鬼軍曹！」
「耐えてみせろ、人間！」
「ぐぉぉおお！！　負けるかあ！」
　あと３０センチメートル。
　その指が、葉の先にかかり。
　その手が、茎をしっかりと握りしめて。

「おりゃああああ！！」

満身の力を込め、草を引き抜く

「合格！」
「え･･････」
　手のひらのシダが、笑顔を見せていた。
「人間、よくこの試練に耐えた！」
　この地球の、人間よりはるか以前から住人であった草。
　先輩からの、すこし手荒いエール。

「我々草木は、見込みのない種を鍛えたりはしない。
　貴様はよく、我が試練に耐えた！」
「鬼教官･･････」
「これからも日々鍛錬に努め、霊の長として、この地球の生態系を守ってほしい！
　志波武道殿！　任務は重いぞ！」
「――教官！」

　万感の思いが、武道の胸を打った。

　後日彼は、シダ植物を見ると思わず敬礼しそうになる自分に耐えなければならない。