なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

「イェエエエエエエエイイイイイイイイ！！！！」
「うわあああああああああああああああ！！！！」

　風見鳥スグリは、その少年に見覚えがあった。
「そこにいるのは･･････」ハッとした顔をして「うちの店に来てくれた、セレブリッティイイ！　なお客様じゃありませんか！」

　一方タイラは、こんな奴知っていたとしても知りたくはない。
「な、なッ！　いきなり何をする！」
　以前行ったカフェの店員が急に襲いかかってくる！
　大きく全身をのけぞらせ、タイラの躯をがっしとつかんだかと思うと、
「あっげあっげでいきまショ～！！」
　小柄なタイラの体を、走り回りながらぶんぶんと振り回す。
　親愛のハグからの、
「高い高い～～～高い高い～～～」
「わああああ！！！」
　謎の高笑いをしつつ、タイラを高い高いしながらスピンダンスを踊るスグリ。

　ドカッ！

「ブフォッ！」
「ええいい！」
　タイラがもがいた時にでたつま先が、偶然スグリのみぞおちにめり込む。
「いきなりミッゾオチに！　華麗なキックが！　入りましたァ～～～！」
　鼻血アンド耳血を盛大に吹き上げてスピンしながら倒れ込むスグリ。　
　そのまま動かない。

（な、なんだコイツは･･････）
　タイラの中で、不審度ゲージが満タンになる。
　いきなりカフェの店員が抱きついて、高い高いをする。
　彼の国にはなかったことだ。
（まさか、誘拐犯？　このまま、どこかに連れて行こうなんてことでは･･････）

「怪しい者じゃないですよ」
「ぎゃあ！」
　ぬっと立ち上がったスグリに悲鳴をあげるタイラ。
（コイツ、蹴られてもめげないなんて！）

「そ、それ以上近づいたら、人を呼ぶぞ！」
「――おやぁ？　なんだか前に会った時より、警戒心なさってません？」
「あたり前だろ！　一体どういうわけだ、この不審者め！　以前会った時には、もっと普通だったじゃないか！」
　言われてみれば、今日の自分は、ちょっとテンション高すぎかもしれない。
「なんだよ、そのテンション！」
「――まあ、ちょっとテンション高すぎるってだけだし、ダイジョウブですってば」
「どこがダイジョウブなんだ！　一体！」

　全身の毛を逆立てた猫さながら、警戒心をむき出しにするタイラ。
　ヒエッ！　と悲鳴を上げるスグリ。
「どういうつもりも何も、再会を全身で喜んでいるだけ･･････なのにそんな威嚇行動･･････」
　悲しげな眼をするスグリ、ちらりと奇妙な草が眼に入る。
（あれ、よく見たら、見たこともない草が生えている･･････）
「失礼します！」突如現れる椿。「あなたはどちらの草なんですか？」
「イェイ、俺はテンションたか草。周りの人間のテンションをアゲアゲにできるのさ」
「昔あった、音楽を聞くと踊り出す花のおもちゃみたいです」
「テンションが高ければ、だいたいのことは凌げるものさ。イエ～イ。
　ちなみにあっちの少年と一緒にいるのは、ふしん草。警戒心が高くなって、神経が研ぎ澄まされる」
「なるほど、最悪の組み合わせなのです！」
（原因はわかったけど･･････）
（アゲアゲ過ぎて･･････）

「どうしたらいいか、ワカンナイ！」
　激しくスピンしつつ、タイラに親愛の情を示すスグリ。
「怪しかった？　ゴメンナサイイイ！！！」
「うわあああ！！！！」
　恐怖に顔面を引きつらせるタイラ。

――お待ちなさい！

　そのとき、凜とした声が響き渡った。
「ムッ、何奴！」
　振り返るとそこには、美麗な騎士が燦然たる光を浴びて立っている！
　その傍らには、あでやかな大輪の花。
「あいつは『コスプレしてろしゅつし草』だな。自己肯定感が強くなる」
「ほえ」

　びっ！　とポーズを決めて、スグリに見栄をきる騎士、舞錠桜華。
「春の七草騎士団、ナズナの騎士、ローゼンクロイツ！
　ぺんぺん草も生えないくらい、貴様を徹底的に倒す！」
「ローゼンクロイツ･･････『フローラナイツ』とは、通なゲームを出すね･･････」
　ニヤリと凄絶な笑みを浮かべるスグリ。
「･･････ご存じなのですか」
「ゲーマーの端くれでね。キャラデザの人気は高かったケド、ゲームは遊べたものじゃなかった･･････」
　ずびし、と桜花を指さすスグリ。
「勢い余って課金までしてしまった鬱憤を、晴らさせてもらうぜぇぇぇぇ！！！」
　勢いよく飛び出し、テンション高くずっこけるスグリ。
「うわあああああ！！！！」」
「だ、大丈夫ですか！」
「血が、血がああああああ！！！！」

（な、何なんだよ、一体･･････）
もはやドン引きのタイラ、不審の思いで満タンである。
「日本は治安がいいって聞いていたのに、不審者に、騎士までいるじゃないか･･････」
こうなったら、一刻も早く逃げるしかない。

ぴゅーと走り去るタイラに「ゴメンネエエエエ！！！」とハイテンションの謝罪がくりだされた。
タイラの耳にはいったかは、知るよしもない。

この一件ののち、ゲルマンの血濃い秀麗なタイラの顔に、猜疑と不審の暗い翳が刷かれるようになったと言われている。

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なんだかとっても、たのし草！

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