なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

（～♪）

シーナ・キュクノスはご機嫌だった。
普段の自分なら持て余してしまうような感情、どうしようもないやるせなさ。
そうしたものがひどく軽く、どうってことないものに思えてきた。
そもそも、自分が普段そうした気持ちにとらわれていたのがが信じられない。
それくらい気持ちが晴れやかで、のびのびとしていた。

（あの草に出会ってからかな――）

表面に、絵文字のように顔がくっついていた奇妙な草。
妙にポジティブで、明るい草に出会ってから。

（なんだか、楽しい気分）

わけもなく笑顔になったり、鼻歌でも漏れてしまいそうな気分だ。

（今なら――）

そして、シーナの脳裏に浮かぶのは、いつもあの人の顔だ。
自分の剣術の先生であり、生活を共にする人。
身の回りのことなんか何一つできない人。

（だらしなくって、いい加減で、不真面目で･･････）

きっかけは、もう思い出せない。
すごく些細なことだった気がする。
いつもの諍いがいつものようにこじれた。

（どこを･･････）
（どこを見てるのか、わかんなくなった）

師匠がふてくされた。
許せないと思って、星幽塔を飛び出してきた。

でも･･････。

（今なら「怒っていませんよ」って言えそう！）
そう。
いつものケンカだ。
すべて元通りになる。

（戻ろうかな･･････）

呟いて、空を眺める。

五月の空は光にあふれて、かぐわしい風がシーナの頬をなでた。

（あれ･･････）

その陽に、一瞬陰がよぎる。

くまなく明朗と見えた、シーナの心に、一点奇妙な陰がひらめいた。

――不安になるようなこと、ないはずなのに。

心の中の陰が広がっていく。
不安が幾何学級数的に拡大していく。

胸が苦しい。
くらくらする。
急に周囲の温度が、何度も下がってしまったみたい。

（もし――）

不意に芽生えた不安が、シーナの心の潜在的な思いに触手を伸ばす。

（もし、お師匠さまがそっぽを向いたら――）
（自分の方を向いてくれなかったら――）

――どうするんだい？

シーナの背に、そんな言葉を投げかける、妙に背の高い草の姿があった。

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