「ＦＥ外から失礼いたします。コスプレ写真拝見しました。ところであなたのコスプレした死神メイドは非常にファンの間でも人気の高いキャラで、コスプレイヤーの中でも人気が高く技術も優れた一部の人しかやってはいけないことになっています。そういった事情を知らずに死神メイドのコスプレをすると不愉快な思いをする人も少なからずいると思います。もう少しいろいろなことを勉強してからコスプレなさった方がよろしいかと･･････

「自意識過剰乙。壁に向かって写真を写してた方がいいかも。逝ってよし。帰ってよし。

「あ～あまたよく死神メイド知らない勢がコスプレしてるよ。原作見たことないんじゃね？死神メイドのフリルは二重じゃなくて三重だろ常識的に考えて。それにポーズも右手の角度がおかしいし。半年ＲＯＭってろ。

「プゲラmmmmmmm乙a;:;:;:;:;:a:;::::;::死神メイドwwwwwww

「はあ･･････」
　ねこったーから流れてきたタイムラインをながめて舞錠 桜華はため息をつく。
　Nyaphoneをポケットにしまい込んで、庭の草木に水をやっても、少しも気持ちは晴れない。
「何であの時、コスプレしちゃったんだろう･･････」

　女子高生、桜華には趣味がある。
　コスチュームプレイの衣装を作ること。そしてそれを着ること。

　おしゃれな服、独特のセンスがある服が大好きだった。
　どうしても服を作ってみたくなった。
　手先は器用だったし、凝り性だったので、完成した服は我ながら素晴らしい出来だった。

「衣装を作るのは好きなんだよね。･･････だって可愛いし」

　しゃがみ込んで、誰にともなく語る。

「誰かの前で、それを見せるというのがなあ」

　出来た服は、多くの人に見てほしい。
　でも、畳んだ服を写真に撮ったり、マネキンに着せても面白くない。
　モデルを頼む当てもない。
　容姿に自信があるわけでもないが、この服の着方を一番知っているのは自分だ。

　この服の一番の輝かせ方を知っているは自分だ。

　自分が着るしか、ないではないか。

　気乗りはしなかったが、多くの人にコスチュームを見てほしいという願望が勝った。
　恐る恐る画像を自撮りしてアップしたところ、望外の評判を得た。
　うれしくなった彼女、矢継ぎ早にコスチュームを作って、どんどんアップした。
　量産と、それに似合わぬ質の高さ。
　界隈で、あっという間に彼女は評判になった。

　そこからが問題だ。

　彼女のニャンスタグラムや、ねこったーのフォロワーが大量に増えた。
　それとともに、奇妙な投稿が増え始めた。

　おとなしい性格が災いしてか、最近はアンチの粘着の度合いが異常だった。

「キャラの体型とか、口癖とか一緒じゃないと、すぐフルボッコだもんね」
　力なく項垂れる桜華。
（誰にも見られないように衣装を作って･･････。
　･･････でもそれって、すっごくむなしい生産行為だよね･･････）

　ため息を大きくつく
。
　その鼻に、なにか強い芳香が匂った。

（――何？　この匂い）
（いい匂いがする。すっごく、いい匂い）
　視線をさまよわせると、そこには。
「わあ･･････」

　ド派手な、まるで熱帯雨林の花のような植物。
　むせかえるような薫風。
　生々しい原色の花弁。

「すごい･･････草なのに、すごい存在感」
　ちょっと眼をそむけたくなるような、ものすごい迫力。

　それでも、眼を離すことはできない。

「そう･･････そうだよね」

　人と違うこと。それは目立つこと。
　違う服を着て、違う趣向を出して。
　それを恐れて、遠くから石を投げる人もいる。
　その石に、いちいち過剰に反応する人もいる。


　だが･･････。
　大事なのは、どんな草だっていていいっていうこと。

「私が、どんなコスプレをしてもいいっていうこと」

　その瞬間花が強く匂い、まるで「一緒に行きましょう」とささやいているように思えた。

「ようし･･････！」

　呟いて、桜華は花を摘み、胸元に挿す。
　そのまま軒下から部屋に入り、箪笥を開ける。
　一番奥にしまってあった衣装を取り出す。
　濃密な防臭剤の匂いとともに、一着の豪奢なドレスが姿を現した。

『ナズナの騎士・ローゼンクロイツ』

　絶望的なダメゲーだが、キャラ人気だけは高い女子向けキャラゲー「フローラナイツ」。
　植物の力を借りた美少年たちがダイナミックなバトルを繰り広げる。
　春の七草騎士団の一人、ナズナの騎士ローゼンクロイツ。

　名前が薔薇なのに、地味極まりないナズナの加護を受けているという苦悩。
　別名がペンペン草という、呪われた宿命。
　七草騎士団の必殺技「粥アタック」でも、雑草が入ってると思われ捨てられる運命。
　あらゆる設定が、ニッチな女子のハートをゲットし、今や一大人気キャラとなっていた。

　当然、コスプレの敷居も高い。

　炎上確実。

　かまうものか。

　――ああ、さっそくコスプレしなくちゃ。
　――コスプレして、顔出し配信･･････。
　――ハンドルネームは･･････。

「いや、それよりも！」

　町の広場で、コスプレのままリアルタイム配信！

　これだ！
　これは面白い！

　軽やかに飛び出す桜華。自分を露出することに賭ける彼女、行く手を阻むのはなにもない。