なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

　草と人間のトラブルが、あちこちで発生していた。

「――よし！」
　お気に入りのシューズを履いて、志波武道は全身をひねった。
　外は快晴。絶好のトレーニング日和だ。
「ウン、気持ちイイナア！」
　晴れ晴れと笑って走り出す。

　と･･････。
「喝ッ！」
　突如、大音声が響き渡った。
（･･････今そこの影から、声がしたような？）
　いぶかしむ間もなく、志波の肩に、急にズンと重みがかかる。
　子供一人分くらいの重量がいきなりのっけられた案配で、
「うわっち！」
　たまらず路上につんのめる。

「臥薪嘗胆、石の上にも三年！　性根があれば、死すとも死なず！
　人間のガキ、これから貴様の爛れきった性根を入れ替えてくれるわ！」
　歯をくいしばって顔を上げると、風格のあるシダ植物が一株。
「ちょっと待って、体がすごく重く感じるんだけど･･････君が原因か？」

　仔細はよくわからないが、また自分が変事にまきこまれたことは確かなようだ。
「あ、あの･･････」
「上官への返事は『サー・イエッサー！』だけだ！」
「さ、サー・イエッサー……」
「舐めとるのか貴様ッ！」
「サー・イエッサー！」
「まずはスクワット百回！　そして腕立て伏せ百回！
　つべこべ言わずに従え！　ガン・ホー、ガン・ホー、ガン・ホー！」

（コレ、スパルタ教官みたいな感じだ。
　――上から目線で命令口調の、鬼軍曹って奴じゃないですか！）
　また何かの異変に巻き込まれたらしい。
（鬼軍曹――ならぬ、鬼軍草、ってやつかな･･････）

　どうやら地獄のシゴキブートキャンプを終わらせないと、解放してくれないようだ。
「尻が上がっている！　サボるな！」
「ぐっ･･････！」
　シダ草の叱責とともに、武道の肩にかかる重力がグンと大きくなる。
　猛烈な負荷をかけることで、強靱な肉体の促成が可能になるのは事実。

「これ、トレーニング？　割ときつくて、すでに修行レベルなんですけど」
「人類という種は、ここまで堕落したか！
　オルドビス・カンブリア・白亜紀ジュラ紀三畳紀と生き抜いた先人の知恵から何も学ばなかったのか！」
　
　叱責一言ごとに、全身にかかる負荷が加速度的に大きくなっていく。
　全身から汗が噴き出て、上体を起こすと骨が軋み上がる。
　普段からトレーニングを欠かさない武道にしてみれば、これくらい朝飯前。
　だが、このまま重力が大きくなっていくと、さすがにハードだ。
　人間工学的によろしくない。
　何より、

（シューズがダメにならないと、イイナア･･････）

　まさか、こんなトラブルに見舞われるとは。
　お気に入りのシューズを、ちょっと後悔した武道だった。

「まだまだ余裕ありそうだな！　重力、倍！」
「ぎゃあああああ！」