なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

風見鶏スグリ氏の普段の生活、思考について軽く申し添えておきたい。

彼は、とても良い人間である。
誰とでも直ぐに打ち解けることができる。
少し軽薄ともとれる言動も目立つが、それも最近の若者なら仕方ない。
凝り性で義に篤い、きちんとした人間なのである。
普段ならば。

「ランランラ～ン♪　ランランラ～ン♪」

本日のスグリ氏は絶好調であった。
鼻歌というにはボリュームが大きすぎる絶唱で、スキップも軽やかに大路を進む。
周囲の「見てはいけないような人間が現れた」という視線も気にならない。

「タラりラリラ～いい天気だなあ～」

軽やかにスピンして近くの犬に挨拶。

（あれ、普段より、オレテンション高くね？）
（普段より、アゲアゲ？）

「あれ～？」
首を傾げながらクルリとチャールストン。
「何か急に、気分があっげあげになってきたっぽい～？」

スグリを祝福するかのように、ひらりひらりと舞う草。

「なんでかなあ～」

鮮やかに跳躍。

「なんででしょうねエ～」

クルリとバク転。

「ひゃっほ～い！」

不審そうな周囲の目線を少しも気にすることなく、スグリは身内に生じるバイブに身を任せる。
楽観的で気分屋の彼、心中に兆した衝動を、冷静に観察するなんていう殊勝さはない。
ひたすら歓喜に身を浸らせきるのだった。

そんな危険なくらいの幸福感に身を任せるスグリとは、正反対の思いに沈む少年がいた。

（なんだかよくわからないが……）

まだ幼さの残る、秀麗な眉を寄せタイラ・トラントゥールは物思いにふける。
そうして悩む様も、彼の父方フランスの憂愁を連想させる。

（色々なことが、怪しく感じられてきたぞ……）

母の里帰りで、この春から寝子島に来てこの方、心安らいだ覚えがあまりない。

（新しいベッドが合わないのかな……）

悪い島ではない。
南仏、プロヴァンスを髣髴とさせる風光明媚な土地。
友達も気のおけない連中だ。
それでも、新しい環境は彼の過敏な心を刺激する。

（それとも別の何か……この国には、何か悪い磁場でもあるのかな……）

思考すれば思考するほど、怪しく思えてくる。
幽霊の正体見たり枯れ尾花ともいうが、タイラに思い込みを反らさせる手段などない。
一途に、ひたすら思考にのめっていく。

あらゆるものが神経を逆なでし、いらだたせるために存在している。
そんな思いにとらわれてしまう。

（あやしい……）
（不審だ……）

　彼の背後で、ふわりと草が揺れるが、彼は一向に気づかない。
　
（みんながボクを、笑っているのか……）
（苦しめて、いらいらさせて、笑っているのか……）

　轟轟と渦巻く猜疑心が、彼の心を千々に引き裂こうとした、まさにその瞬間。
　
「イヤッフゥ～！！！！！！」」
「うわあああああああ！！！！！」

突如ハイテンションの男に話しかけられ、恐慌をきたすタイラ。

出会ってはいけない二人が出会ってしまった。

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