なんだかとっても、たのし草！｜リアクション

なんだかとっても、たのし草！

「この草か･･････」
　シーナは、握りしめて引きちぎってしまった草をじっと見る。
　先ほども、自分を草が元気づけてくれた。
　この草がおそらく、自分の感情を強くゆらしたのだろう。

（･･････）
　シーナは、先ほどの自分の感情を追想してみる。
　師匠が、本当に自分から離れていってしまうこと。
　想像しただけで、本当に胸が痛くなった。
　やはり、あの人は自分にとって大切な人。
　これから先、星幽塔に戻って、またもとの生活を初めて。
　そしてケンカや、諍いが起こることもあるだろう。
　自分も師匠も、子供じみた振る舞いをするかもしれない。
　それでも、あの自分の中で荒れ狂った感情があるのなら。
　苦しいとも悲しいともつかない、あの気持ちがあるのなら。
　自分はずっと、大切な人を大切に思うことができるだろう。
　そう強く思えた。

「悲しみという気持ちに溺れるのも、大事なことだ」
　手元で何か声がした。
　シーナがそちらをのぞき込むと、草が優しそうな顔でこちらを見ている。
「ああ･･････そうだね。本当にそうだ」
　笑いなががらシーナは、草むらに仰向けで倒れ込む。
「こんな時でも、助けられちゃった。
　いなくても、何度でも救われる。
　――それが、本当に嬉しくて」
「Ｈｅｙ！　だったらそろそろ、向こうもあんたをまってるぜ！」
　声のする方を見ると、そこにはさっきの『うれし草』。
「うん、そうだね。――ごめん、仲間にひどいことしちゃったね」手元の草を見せる。
「気にすんなってことよ。俺たち草は、すぐ生えてくるんだから。
　そうだ。せっかくだから、そいつらで草笛を作ってくれないか？」
「草笛？」
「あんたが作る笛は、とってもいい音色がすると思うんだ。
　俺もプチッとやって、笛にして――。いずれ枯れる俺たちの体だけど、音楽になれると思えば本望さ」
「――わかった」

　シーナは優しく『うれし草』の体を摘んで、寝転がって草笛を吹く。

（ああ、早く帰って会いたいな――）
（会ったらすぐ、素直にすねてごめんなさいって言おう）
（想像するだけで、ずっといつもより、嬉しい気分だから――）

やわらかな音色が、青空に向けて吹き渡っていった。