いざ特売という名の戦場へ｜リアクション

いざ特売という名の戦場へ

●猫のために

　猫屋敷姫はシーサイドタウンにやってきた。旧市街に住んでいる姫にとって、ここはなかなかに遠い。しかもデカめのキャスター付きトランクケース＆リュックサックという万全の装備。そこまでして歩いてきたきっかけは、とある広告だった。その内容はペット用食料の特価セール。

「高級缶詰！　高級カリカリ！　そしてお徳用カリカリも！」

　姫は近所の猫に餌をやるのが日課で、住居もまさに猫屋敷という様相。いつもは参道商店街を贔屓にしているが、こればかりは逃してはならぬと勇んでやってきた。良い食料はいくつでもキープしておくに越したことはない。

（まあ、ウチに来るの近所の野良なんですけどね）

　飼っているわけではなく、自然と家の周りに集まってくる。たまによその飼い猫が紛れ込んでいることも。そんな猫たちが餌を食べるところを思い描きながら目的の店へ向かう。
　店に着くと、それなりに人がいて賑わっている。姫は周りの人もきっとペット商品を買いに来たのだろうと感じた。星ヶ丘の人らしいマダムも穏やかな表情で買い物を楽しんでいる。さらに店内を観察すると店の奥側に人が集まっているのを見つけた。あそこで特価セールが行われているのだろう。

「いざ、戦場へ！」

　人だかりの中心には特価対象品が入ったラックが置かれている。しかし我先にと奪い合っている様子はない。ラックの周りでワイワイと商品を吟味しあっている。

（動物愛好家同士喧嘩しないといいますか。そうですね、同じ動物でも好みが違うですし）

　甘めの味が好きだったり、しょっぱめの味が好きだったり。ラックのなかから、それぞれのペットの好みに合ったものを探している。
　この機会にできるだけ買っておきたい。しかしペットの好みに合ったものがいい。商品の数はそれなりにあるが、どの味が何個あるかは分からない。1種類の味が1つしかないことも十分ありえる。そこで客同士が商品を吟味しつつ、交渉を行っている。

（どうしても欲しいという方に譲ってあげたり仲良くわけたりですね。ウチは野良にあげるものなので雑多でいいのです）

　姫は種類を幅広くカバーするように商品を選ぶ。他の客とは異なる考え方だが、だからこそ衝突しない。むしろお互いに交渉しやすいといえる。姫は物怖じすることなく交渉を行い、手元の種類と数を増やす。
　交渉をひととおり終えて会計を済ませると、持ってきたトランクケースとリュックサックにいれる。できるだけ隙間なく詰めたのに2つとも満杯になった。

「ご飯の準備をしないとです」

　猫のえさがたくさん入ったトランクケースとリュックサックを持って、旧市街の住居へ向かって歩き出した。

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