いざ特売という名の戦場へ｜リアクション

いざ特売という名の戦場へ

●特売おそるべし

　とある休日。時刻は９時過ぎ。八神修は自転車に乗って学校へ向かっていた。
　休日になぜ学校へ向かっているのか。それは射撃部の練習をするためだ。休日は自由参加だし、修は半強制的な練習は趣味じゃない。命令も強制もしたくないという思いからだ。しかし部活に出るのが自由なら練習に行くのもまた自由。
　ストレッチ、ランニング……と頭の中で予定を組み立てながら移動していると、ある光景が目に留まった。

「特売だ」

　視線の先には小売店の集合した大型小売店。修は自転車を停めると店頭に貼りだされたチラシを確認する。雰囲気に呑まれて不要な物まで買わないように、予め何をどれだけ買うかを決める。
　自分のなかで購入リストをまとめる。薬局の特売で狙うのは湿布、目薬、傷薬、絆創膏、テーピングテープ。施設内のスーパーマーケットで狙うのは、袋キャンディをいくつか、ティッシュ箱５個セット。ティッシュ箱はできれば２つ確保したい。
　これらは自宅用ではない。それは使用人が良品を切らさずいつも揃えてくれている。今から買うのは部活用だ。射撃部の予算は割と潤沢だが、それでも無駄遣いはしたくない。意を決して人混みに突撃した。
　薬局では休日特有の混雑はあったものの、目当てのものは全部買えた。特売といっても売り切れる商品では無かったのだろう。この調子で次の店へと向かおうとする修。しかしその足はいちど止まる。
　そこは服売り場。ここも特売で賑わっているが、薬局の比ではない。人だかりができて通行を困難にしている。しかしスーパーマーケットへ行くにはここを通らなくてはならない。人々の熱量に気圧される修。だが行くしかない。覚悟を決めると人混みに向かって歩きだす。
　それはまるで意志を持つ壁だった。隙間を見つけて進もうとする修に逆らうように、人が流動して壁を作る。さらに前後左右から押されて身動きが取れなくなる。窮屈な空間をどうにか脱しようと奮闘する修。そして、ようやくそこを突破した。
　修は深く息を吸って、大きく吐いた。体が疲労を訴えてくる。特売のなんたるかを全身で体感した気分だった。しかしまだ目的は達成されていない。少しふらふらする足でスーパーマーケットへ向かう。
　到着するとさっそく狙った商品のある棚へと向かう。まず袋キャンディを確保。そのままティッシュ箱のあるほうへ。

「……無い」

　棚のなかで１ヶ所だけ何を置かれていない場所。そして『在庫切れ』の札。残念ながら間に合わなかったようだ。修は肩をがくっと落とした。
　店を出てレシートを確かめる。ティッシュ箱以外は予定通り買えたが、不慣れな特売で思ったより疲れている。

「……帰ろう」

　修はゆっくりと自転車を押しながら家へ向かった。

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