Ｏｈ！イエス！めいっぱい本当のジブン！｜リアクション

Ｏｈ！イエス！めいっぱい本当のジブン！

　
　朝から騒々しいダーク・ネコジマシティ・ハイスクールの教室。
　しかし、この喧騒の中で、ひとりまったく異なる空気をまとう生徒がいた。
　彼女は窓際に座り、その黄金の髪をなびかせ、静かに外を眺めていた。哀愁を漂わせながら。
「あなたはそれでいいの……？」
　静かに呟くその哀愁たっぷりの声は、コタツムリンの耳に届いた。
「え？」
「あなたのギターには、まだ力がある」
「私のギターに、力が？」
　大きく頷き立ち上がった彼女の名はアリシア・エーゼルベルク……ではなく、正義のヒーロー『ゴールデン・キャットガール』。
　ヨーロッパのヒーロー学校からやってきたという彼女だが、その頭には日本の文化やアニメの情報がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「こういうとき、がむしゃらにギターを弾くことで誰かの心を動かして事態が好転する、というのはよくあるパターンだよ」
「たしかにありそう」
「そういう助言をする人は大人びた雰囲気で登場して哀愁を漂わせたり、郷愁にひたったりするというのもパターンのひとつ」
「たしかにそうかも」
　キャットガールは再び外を見つめる。
「リヒテンシュタインの空が懐かしいわ」
　漂う哀愁は演技だったらしい。
　キャットガールはペロッと舌を出して、ウインク。
「歌の力で敵を倒すのは、日本の子どもミュージカルの最もよくあるパターンだよ！」
「たしかに～！」
　コタツムリンはもう一度ギターを構える。
　キャットガールが素速くパンプキンの拡声器を奪う。
　パンプキンらヴィラン生徒たちは「無駄なことを」と呆れて見ていたが、彼女らが気合いを入れて髪を束ねると、ひとりのヴィランが早速寝返りそうになっている。
「やっぱりポニテは最高……！」
　ブラック・ポニテーノはヒーローバンドの一番のファンになるだろう。
　歌う前からの影響力に自信を深め、キャットガールが歌い出す。

『Ｈｅｒｅ　Ｔｈｅ　ＤＡＲＫＮＥＣＯＪＩＭＡ！　Ｇｏｏｄ　Ｉｓｌａｎｄ　Ｓｅｒｉｏｕｓｌｙ！
　Ｏｈ　Ｆｒｅｅｄｏｍ！　Ｏｈ　Ｆｒｅｅｄｏｍ！』

　キャットガールの熱唱により、もう一匹？のヒーローキャットは目を覚ました。
　コタツの上に置いてあった巨大なみかんが、ゴゴゴっと動き出す。これはみかんではなく、みかん色のスーパー・キャット・スーツをまとったヒーロー、多喜勇生……ではなく『にゃんこたん・ざ・たきにゃん』が丸くなっていたのだ！
　コタツから降りてかわいくポーズをとり、
「にゃんこたん、にゃんじょう！」
　言ったそばから恥ずかしさで顔から火を噴くにゃんこたん。
　彼はまだヒーロー歴が浅いのだろう。猫型のスーパースーツを恥ずかしがっていた。
「『にゃんじょう』というのは『参上』のことですねー」
　久しぶりにあの少女がノートをとりながら冷静に呟くと、ますます恥ずかしさで絶望するにゃんこたん。
「解説だけは、やめて……にゃん」
　ヒーローたちは、みんなで歌い、踊るにゃん。
　歌声が、演奏が、音符となって実体化し、教室いやステージを満たしていくにゃん。
「歌うんじゃねえー！」
「な、なんだこれは！　ヒーローくせえ！」
「やめろ～！　虫酸がはし、はし、はしる…………にゃん」
　みなぎる正義のエネルギーが、目に見えてヴィランたちを圧倒していくにゃん。
　こうして最後は正義が勝つにゃん！　それこそが正しいパターンにゃん！
　その時だった。
　すっかりノリノリで踊るにゃんこたんの眼前、ステージの中央に、

　ザクッ。

　巨大な刀剣が突き刺された、にゃん……。
　

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