Ｏｈ！イエス！めいっぱい本当のジブン！｜リアクション

Ｏｈ！イエス！めいっぱい本当のジブン！

　
　ダーク・ネコジマシティに存在する唯一の善良な店とも言われる、眼鏡屋。そこの店主である浅葱あやめは、ヴィラン生徒たちが占領する校長室で恥ずかしい格好で囚われていた。
　それがどんな格好か、ここに詳細に記すことははばかられるが、ピンク色の布は面積が非常に少なく、かつ体の表面あちこちに点在しており、一部ラメがキラキラと輝き、一部シースルーで肌が透けて見え、一部…………ダメだ！　立場上、これ以上お伝えすることはできない。
　また、この恥ずかしい格好が本人の趣味なのか、ヴィラン生徒たちに着させられているのか、そこは読者諸兄の想像に任せよう。
「ぼ、僕は……ただの眼鏡屋です。眼鏡を、返してください…………」
　眼鏡を奪われたその目だが、どこか芯の強さを感じさせる。
　そう、眼鏡屋は仮の姿。
　スーパー・ヒーロー・眼鏡をかければ、ヒーローに変身できるのだ！
「眼鏡、眼鏡を……誰か…………」
「ハイ、ドーモコンニチハ！　ワタシを呼んでクレマシタネ？」
　黒いマントに包まれて、オレンジ色のカボチャ頭。
　その中に、キラリとのぞく光る瞳。
「フハハハ、ドーモドーモデス！　ＤＥＡＴＨデス！」
　ヴィラン生徒会の広報隊長、旅鴉月詠……ではなく『パンプキン・ハロウィン・キリサッキ・ジャック』だ。
　眼鏡屋は呼んでないと首を振る。
「アナタの目にナニがうつってマス？」
「め、眼鏡がないので……あ、あの、それよりあなたのことは呼んでないんですが……」
「ハイドーモ！　ココロの目で見るのデス！　ワタシのココロをウォッチデス！」
「はぁ……ココロを……」
　パンプキンの得意技は、ココロの同化。すなわちヴィラン側への闇堕ち。
「あなたのココロ……どこかホッとします」
「ソーデショー。ソーデショー。ワタシのココロを見て、そして飛び込むのデス！　ココは、ミンナのイバショ！　アナタのイバショなのデス！」
「みんなの居場所！　どこかで聞いたこのフレーズ……まるで時がゆっくり進むかのように穏やかなキモチになっていきます…………」
　大丈夫か、眼鏡屋さん！
　大丈夫か、眼鏡屋さんの良心！
　しかし数時間後、校長室で仁王立ちするのは、恥ずかしさはそのままにピンクからダークグレーに変化した『ヴィラン校長』であった。
　ああ、額の上に載せたスーパー・ヒーロー・眼鏡にさえ気がついていれば、こんなことにはならなかったのに。

　一方、教室では――

　コタツムリンはコタツに入ったまま。
　その上には、無数のみかん。
　中にはどういうわけか巨大なみかんも置いてある。
「コタツから出たくない、というわけじゃないんだけどね」
　みかんを食べることでスペース・エネルギーを発動させる仕組みの彼女は、みかんをもぐもぐ。
「だらだら食べてたい、というわけじゃなくってね」
　などとうそぶきながら、次々とみかんに手を伸ばす。
　すると、横からスッと何か別の食べものらしきものが出でくる。
「カボチャパイ？　美味しそう！」
　敵の罠だとは気づかず、
「ありがとう！」
　美味しくいただくコタツムリン。
　しかもその前には、次々と置かれるカボチャパイ。ワンコソバならぬワンコパイ。
　敵の罠だとは気づかず、
「はあ～美味しい。口の中がすっかり甘くなっちゃった」
　そのとき、拡声器を手に現れたのは、パンプキン。
「ドーモ、コンニチハ。カボチャパイ、オイシイですか？　アナタもおひとつドーゾ。ハイ、アナタもドーゾ」
　カボチャパイを配りながら、教室をまわる。
　コタツムリンは慌ててエネルギー源のみかんを食べようとするが、ひとくち食べた瞬間、
「酸っぱ！」
「ハイ、コンニチハ。甘いものイッパイ食べたら、みかんは酸っぱくなるデスネ！」
「まさか……このためにカボチャパイを！？」
　酸っぱくて食べられないと膝をつくコタツムリン。
　必要なら酸っぱくても食べればいいような気もするが、コタツムリンもパンプキンも気づくことはなかった。
「ヒーローなんてコワくないデス！　アナタのギターもコワクナーイデス！」
　ヒーロー的衝撃波のないギターは、ただのギター。
「ま、負けた……」
　うなだれるコタツムリンを前に、パンプキンは高笑い。カボチャパイをみんなに配るのだった。
　

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