５月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

５月の☆ハッピーバースデー

●２１日

　寝子島町役場に勤める三折部朝衣は、本日２０歳の誕生日だ。
　社会人２年目。心身共に健康。年度末から新年度にかけての繁茂期もしっかり乗り切り（若干（？）ハプニングもあったが）、仕事ぶりも真面目と評価される朝衣。順調な生活を送っている。

　自分が誕生日という事を除けば、平穏な平日だ。朝衣はいつも通りの職場でいつも通り仕事をこなしていたのだが、今日の休憩時間はいつもと違っていた。
　職場の人達が朝衣の誕生日をお祝いしてくれたのだ。ちょっとしたお菓子をくれたり何かして。まさか覚えて貰ってるとは思っておらず、朝衣もびっくりするやら嬉しいやら。その時に、上司にひょんと言われたのだ。
「これで、大人だね」
と。
（そうか、あたし、今まで大人じゃなかったんだ）
高校を出て就職をした時点で、子供の時間は終わったと思ってた。けれども法律上では未成年でだった訳で。
（２年間、子供の時間拾いそこねちゃった）
　大人になった途端、複雑な気分。それでも朝衣は休憩時間が終わればだらだらせず、本日のノルマを終わらせるべく自分の席に戻るのだった。

　その甲斐あって定時で仕事を終わらせた朝衣は、役場を出たその足でシーサイドタウン駅に向かっていた。
　彼女が誕生日として心の準備をしているのは、これからであった。仕事帰りに彼女は約束があった。朝衣と一緒に卒業した寝子高の同級生達が集まって、誕生日パーティをしてくれるというのだ。
　桜が呼んだ縁だった。３月に花見をした時に彼女達と久しぶりに再会したのだ。満開の桜の下で女子高生に戻った彼女達は大いに盛り上がり、その後もNYAINで連絡を取り合うようになった。
　仲の良かった彼女達は、勿論朝衣の誕生日を覚えていた。朝衣以外は全員木天蓼大生か専門学校生という彼らは、フットワークも軽い。４月の終わりにはしっかり招集がかけられ、今日という日を迎えたのである。

　駅前は勤め帰りの時間とあって人の流れも多かったが、友人達の居場所はすぐに分かった。わいわいきゃわきゃわ。そこだけ花が咲いたようだ。
「―――あ、みおりん！」
「おー、大人が来たぞー」
　手を挙げ朝衣を迎えてくれる彼ら。朝衣も笑顔ですぐに花の中に加わった。

　全員揃ったところでカラオケボックスに移動した。誰が初めに歌うのかとか、料理とドリンクはどうするのかとか、ここでもやっぱりきゃわきゃわ。それでも物事が進むのが女子の不思議なところだ。いつの間にか誰かが歌い始め、店員がドリンクとたくさんの料理を運んできた。
「それではみおりんの２０歳の誕生日を祝って、カンパーイ！」
　友人の１人が音頭を取り、皆次々にグラスを合わせる。朝衣も自分のグラスに注がれた鮮やかな液体を口に含む。それは、カクテルだった。
（お酒は初めてじゃないけど……やっぱり大人になった気がするわね）
　朝衣はちょっと感慨深げにグラスを見つめる。朝衣だって今時の女の子だから、友人達とこっそりお酒を口にした事だってある。あくまでこっそりと。
　その隠れなくては出来なかった事を、今日からは大手を振ってしていいよ、と言われたのだ。自分が信用されている気がして気持ちいい。
「あ、みおりんお酒だー」
「ちくしょう、私達にもちょうだい～！」
　友人達が気付いて口々に声を上げる。朝衣はグラスを上げ、ふふと微笑んで見せた。

　そして、大人になった朝衣がその後どうなったかというと。
　カクテルを飲んで気分が良くなった朝衣はそれからもノリノリで歌って食べて飲んでオールナイト。
　翌朝雑魚寝状態のカラオケボックスで起きた朝衣は、思わず頭を押さえた。物凄くガンガンするのだ。
　痛みに堪えながら自分の姿を見れば、髪はぼさぼさ、服もしわくちゃ。

「――ゲエッ！　今日も仕事あるのに！」

　とんだ大人の幕開けであった。

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