大人は知らない、子どもたちの居場所｜リアクション

大人は知らない、子どもたちの居場所

【スクレでティータイム】

　佐藤瀬莉さんは、学校帰りにスクレを見かけた瞬間、むくむくとわきあがってくる好奇心を抑えることができなくなりました。
（……看板がなくて、でも、よく見るとお店だということはわかって……なんだか秘密基地みたい）
　正体不明のお店は不思議な感じはしましたが、怖いとは感じませんでした。
　だから、瀬莉さんは意を決して中に入ってみることにしました。
　カチャリ、と扉を開けた瞬間、リンゴを砂糖で煮詰めたような甘い香りと子供達の楽しそうなはしゃぎ声が瀬莉さんの耳に飛び込んできました。
（……やっぱり怖い場所じゃなかったんだ）
　と、瀬莉さんはホッとします。店にいるのは瀬莉さんと同じ小中学生ぐらいの子供ばかりで、誰もが皆のびのびと自由な雰囲気の中で過ごしていました。
　いらっしゃい、とカウンターの向こうの店主（？）さんに声をかけられて、瀬莉さんはさっそく日替わりケーキとホットの紅茶を注文します。
　すると、
「ふーん。瀬莉ちゃんは日替わりケーキなんだ」
　と、そのとき、どこかで聞いたことのある声が、瀬莉さんの背中に投げかけられました。
「あ、かんなちゃん」
　振り向いた先にいたのは、いつの日だったか一緒に駄菓子を食べたこともある、桃井かんなさんでした。
「かんなちゃんも来てたんだ。かんなちゃん、ここの常連なの？」
「ううん。この間、お母さんと店の前を通りがかったときになんだか気になって、今日、初めてきた」
「あ、わかる。なんかこの店、気になるよね」
　瀬莉さんは、店先を通りがかったときに感じた好奇の心をわかりあえる同志がいたことに少し嬉しそうに笑います。
「直感だけど、来てよかった。まあ、バカ男子はうるさいけど」
　そう言って、ちらりとかんなさんが視線を流した向こうにはバトルフィールドにあつまるたくさんの子供達。
　小学生から中学生と年齢の幅は広いとはいえ、みんなコドモであることに変わりありません。
　秘密基地、という瀬莉さんのイメージはなかなかどうして的を得ていたようで、そこにはオトナ達が立ち入ることのできない独特の雰囲気がありました。
　もっとも、
「日替わりケーキとホットの紅茶、お待たせしました」
　すっと音もなく注文した食べ物を届けてくれる店員さんは間違いなくコドモではない――はずなのですが。
「……ていうか、あの店員さん、影薄くない？」
「なんか、いつもの店長とは違う人みたい。ほら、アレじゃない？　オトナの事情ってやつ」
　冷めた表情でコメントするかんなさんに、瀬莉さんは思わず息を吹き出して笑ってしまいます。
「あはは、なにそれー」
「べつに。ただ何となく。あ、タルトタタンちょっと食べる？」
「うん、ありがと。じゃ、かんなちゃんにも日替わりケーキあげるね」
　そうして、瀬莉さんはいつかの駄菓子屋でのことを思い出しながら、かんなさんとたわいのないお話をして楽しい放課後を過ごすのでした。

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