【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』｜リアクション

【星幽塔】第一階層　合言葉は『神様の宴会』

● 陽動

「なんだ？　気の早いやつがいるようだな」
　爆音を聞いたフォーマは、ほんの一瞬だけ立ち止まった。だが、すぐにまた走り出す。

「さあて……おれの出番かな。ちょいとばかし暴れてやるぜ」
　ゴーグルをつけて目を保護すると、両肩の刺青に宿る魔火の力を発動させ、偵察中に目星をつけた一階の部屋で大量の煙や小火を生む。
「おい火だ！　火事だぞ！」
　屋敷内を巡回していた手下ふたりが駆けつけてきた。
　フォーマは炎と煙の中で一対の圏に魔火の炎を纏わせ、手下たちにわざと姿を見せつけた。
「ここだ」
　書斎の方が手薄になるよう、玄関の方へ引きつける。
（どうせならさっきの爆発も利用してやろう。この煙で入り込んだ襲撃者はおれだけと思わせてやる）
　フォーマの狙い通り、酒に酔って判断力の鈍った手下たちは、フォーマが陽動だと感づくことなく追いかけてきた。これで団長たちのためにしばらく時間を稼げる。
（よし、ついてきてるな）
　手下どもが見失わないように加減をしながら、フォーマは屋敷内を逃げ回る。
（さて、そろそろいいか？　おれも脳筋共を真っ向から相手する程暇じゃねェしな）
　頃合いを見計らい、フォーマは煙幕を張った。
　手下どもは一瞬フォーマを見失う。
　その隙にフォーマは忍布を被って姿を隠した。
　真っ白い煙幕の中、バリンッ！　と窓ガラスが割れる音がした。
　星の雫で星の力を回復した亮が、屋敷内に飛び込んできたのだ。
「おまえかっ！」
　手下の男は、突然姿が見えなくなったフォーマと、突然現れた亮を取り違え、亮の方に飛びかかっていく。しかしその剣が亮に届くより早く、電撃が男の胸元を打ち抜いた。
「悪党どもが！　成敗！」
　亮はとどめとばかりに、顔面に重いパンチを一発叩き込んだ。
（なるほど、気の早いやつはこいつか）
　フォーマが妙に納得していると、一陣のかまいたちが白い煙を切り裂き、拳を振り上げ亮に後ろから襲い掛かろうとしていたもう一人を仕留めた。
　立っていたのは厳しい顔をしたメイドのアリスである。
「この騒ぎを起こしたのは誰？　盗賊団？　悪徳商人？　どっちが悪い人なの！？」
「どっちも悪い人なのさ、嬢ちゃん」
　煙の中からフォーマが答える。
　フォーマの耳はすでに、騒ぎをききつけ二階から下りてきた荒々しい足音を二人分、捉えていた。
「問題は、おれらに喧嘩売ったってことだ。バールとその手下どもよ、この礼は高くつくぜ」
　フォーマの握る一対の圏が、けぶる白煙の中、炎を纏って輝く。
　階段の踊り場に駆けあがると、階段を駆け下りてきた手下二人の剣を、両の圏で弾く。そこから、炎を纏わせた蹴りも混ぜての圏の連撃。そのすさまじきこと、暴れ馬の如し。炎と煙とゴーグルでフォーマの顔はよく見えないが、真紅に燃え上がる髪がその姿を一回り大きく見せていた。
「ひ、火の馬が来る……！」
　怯え声にフォーマは低く凄む。
「喚くな小物め。我らが団に仇なす者、我が屠り去らん！」
　手下のひとりが後ずさって逃げようとした。だが、アリスが魔風の力を使って投げたロープが足にもつれ、男はもんどりうって階段を転げ落ちる。フォーマはその懐に、炎を纏った膝蹴りを叩き込む！
「ぐえっ！」
　つぶれたカエルのような声を出して、男はそれきり動かなくなった。
「く、化け物が！」
　もう一人が死に物狂いで飛びかかってきた。フォーマは振り向きざま圏を投げつける。
「その通り。お前たちが相手したのは化け物だ。そして、これがその代償だ」
　回転する炎の圏は男の眉間にまっすぐ突き刺さった。
　男は仰向けに倒れ、階段の半ばに無残に倒れた。
「我らが団に仇なす者共よ。我が存在を心に焼き付けろ。……覚えときな」
　煙の中、二階へと立ち去るフォーマの背中を見つめているのはアリスと亮のみ。
　ほかの手下どもはそれぞれに倒れ、もはやその目にフォーマの姿を映すことはできない。

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