【星幽塔】第四階層　星ノ守人のお見合い譚？｜リアクション

【星幽塔】第四階層　星ノ守人のお見合い譚？

（過去の恋を引きずっているのなら、わかるなぁ。あれは中学２年の夏休みだっけ……）
　脳裏に浮かんだ初恋の人だったかつてのクラスメイトの姿にちょっと寂しくなる桜だったが……とある事を思いだして遠い目になった。
（たしかに両想いだったってことが判った時は嬉しかった。嬉しかったけど……はぁ、あの初デートは無いわぁ。）
「どうした？　何か嫌なことでも思い出したのか？」
　ふいにシドニウムの声がして我に返る桜。彼女はとりあえず「大丈夫、です」と苦笑しつつも答える。
「ともかく、我輩がお見合いしない理由をきちんと話さなくてはならないな……」
　シドニウムはため息交じりに頷いた。

　シドニウムはハーブディーにあうかもしれない、と人数分のマフィンを用意すると椅子に深く座り、一口ハーブティーを飲んだ。すると目を細め穏やかな顔つきになった。
「美味しいな。母上が入れてくれたお茶と似ている」
「お母さん？」
　柚春の言葉に、シドニウムは頷いてちらり、と壁に貼ってある女性の絵に目を向けた。
「我輩は、幼少期に両親を失ってな。母方の伯母にあたる養母……先代の『かに座のアステリズム』に育てられた」
　そこまで言い、少し間をおいて彼は僅かに目を伏せ気味にして付け加える。
「彼女は……アステリズムであるが故に、己の婚姻を諦めた」
　その言葉に、全員が息をのむ。シドニウムは「多分、私の事もあったかもしれないが」と付け加え、もう一口ハーブティーを飲んでから言葉を続けた。
「かに座の星の力は、己の生命力と星の力をもって塔を修復する。故にいつ死ぬかわからない。だから夫や子を持つ事が怖い、と母上は言っていた。想い合った相手がいたにも関わらずな……」
　彼の視線の先にいる薄桃色の髪の女性は、穏やかな眼差しをしていた。シドニウムはそれをどこか悲し気な目で見つめていた。
「確かに、この力を受け継いでから我輩自身もそう思うようになった。それと同じぐらい……気が引けるのだ。誰かと結ばれていいものだろうかと……」
「カトルさん、それは」
　稀跡がふと何か言おうとした時である。切羽詰まった声が入口の方から聞こえたのは。
「すいません、シドニウムさんはいらっしゃいますか？　第六階層の薬師、チグサ・ネージュです！　急患を見てもらえませんでしょうか？」
　シドニウムの診療所へとやってきたのは、藍色の髪の女性。チグサと名乗った彼女がどうにか肩を貸していたのは金髪の髪の女性。
（あれは……たしかリラさん？）
　かつて第四階層であった出来事の際話に上がった人魚の事を思い出していた。だが、その巻きスカートから見えたのは人間の足である。
　顔色の悪いリラを、細見のチグサが肩を貸しながら歩くのはややつらかったのだろう。チグサはリラをシドニウムに預けるとその場に崩れるように倒れた。
「……二人を寝台に運ぶ。少し手伝ってもらえないか？」
　シドニウムの言葉に冒険者たちは頷いた。

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