とある館の侵入経路｜リアクション

とある館の侵入経路

　そして、その先で八神修が出会ったのは、
「シュー君？」
「美咲紀か？」
　友人同士の椿美咲紀であった。この妙な世界で知り合いに会うなど、想像もしていなかった。
「なんでここに？」
「シュー君こそ」
　お互いの話を合わせると、どうやら境遇は同じのようで三階の出口へ向かっているとのことだった。
「なら階段を探すか」
「シュー君はどこから上がってきたのです？」
「向こうの階段からだ。ん？　ここにも階段があるのか」
　美咲紀は困ったように首を傾げた。
「そうなんですけど、三階には行けないのですよ」
「ということは別に階段があるのか。そういえば、美咲紀は大丈夫なのか？」
「持ってきたお菓子をあげちゃったくらい？」
「他に誰かいたのか？　まさか、はぐれて」
　美咲紀は照れくさそうに頬に手を当てた。
「鏡の中の自分自身、に」
「……ちょっと待て、何があった？」
「まあ、まあ、それより手分けして階段を探すのです」
「む……そうだな」
話合った結果、美咲紀は近くのドアへ。修もその向かいにあったドアを開けてみた。
「ここは」
　トイレのようだ。
「うお！？」
　後ろから誰かに押されると同時、ドアが勝手に閉まってしまった。
「な、何？」
　ノブは回そうにも鍵がかかっており、動かない。
「閉じ込められたか？」
しかし近くに美咲紀がいるはずだ。
「美咲紀、開けられるか？」
　何度かドアを叩いてみるが、反応はなかった。

〇

美咲紀はドアを開いて、中へと入った。
「お邪魔しますです」
　そこは子供部屋のようだった。おもちゃが散らばっている。
　ふと気づく。小さなベッドに女の子が腰をかけていた。年の頃は十歳くらいだろうか。
「ごめんなさいなのです。勝手に入り込んじゃったかな？　騒がしくしてごめんね」
　にっこりと笑いかける。
　ベッドに座っている女の子は怯えた表情になった。
「怖がらなくて良いのです」
「う、うん……？」
「もしかしてお昼寝してましたですか？　それとも何かして遊んでいたですか？」
「……ぼーっとしてたの。一人だから」
　美咲紀は頷きながら、女の子に歩み寄った。
「そうなのですか。はい、これ。お詫びのシルシなのです」
　個別包装のクッキーを開けて、女の子へ手渡す。
　不思議そうにクッキーを見つめていた女の子は恐る恐る口へ運んだ。
「んむんむ。……美味しい……！　ありがと、お姉ちゃん」
　控えめな笑顔と口元に覗く八重歯が可愛らしい。
「よかったのです。あ、そうだ。三階へ行きたいのですけど、どっちへ行けば良いですかね？」
「お部屋を出て右だよ。東階段があるの」
「ありがとうなのですホント、騒がしくてごめんね」
　女の子は首を横に振る。
「ううん。気を付けてね、お姉ちゃん」
　美咲紀は女の子につられて笑い、頭に手を置こうとしてかすめた。
「あれ？」
　よく見れば女の子の体は透けていた。
「おかしいのです。幻覚？」
　もしや幽霊？　そう疑ってはみるものの、クッキーはしっかり手にしているし、食べているし。
「気にしないでおくのです」
　美咲紀は彼女の横、ベッドの上へいくつかお菓子を置いた。
「もう少し置いてくね。後で食べてね」
「うん」
　女の子と別れ、美咲紀は部屋を出たのだった。
「あれ？　シュー君、どうかしたのです？」
　修は何故か通路の先を見ていたのだ。
「ランベールが」
「ん？」
「いいや、俺達も階段を探そう」
二階を捜索していた美咲紀と修、やがて見つけた階段で三階へ。
　無事脱出出来たのだった。