愛とウサギとチョコレート｜リアクション

愛とウサギとチョコレート

■仮面での入店はギリセーフです
　自動ドアが開けば「いらっしゃいませ！」と明るい声が響き渡る。
　オオカミ男がやってきたのは、いつも明るく笑顔の接客、ネコンビだ。
（……あれが、噂のオオカミさんでしょうか……！？）
　まさか普通にコンビニに現れるとは、と少々呆気にとられた古苗木美姫。
　どうやってオオカミにチョコを渡そうか、と考えていた矢先だったため、驚き。そしてついつい、オオカミ男の様子を伺ってしまう。
　雑誌コーナーに立ち寄ると、漫画雑誌を手に取りパラリとめくり……直ぐに棚へと戻した。キョロキョロと辺りを見回したのち、その手は成人向け雑誌コーナーに手を伸ばし、一冊の本を手に持った。
　そしてその雑誌を隠すように、ミネラルウォーター、お茶、塩気のあるスナック菓子をカゴへと入れていく。無論雑誌は一番下に目立たないように伏せられながら。
　そしてレジへとやってきたオオカミ男。
　レジが若い女子、美姫であったことにやや狼狽を見せるが、ここで敢えて雑誌を戻しに行くのはそれはそれで露骨すぎる。
　腹をくくり、カゴを美姫へと預けた。
「いらっしゃいませ」
　明るい笑みと共に、丁寧な手つきで水やお茶にバーコードリーダーをかざす美姫。
　そんな美姫も愛らしいバニーガール服であり。オオカミの視線は美姫が動く度に揺れるうさみみ、そしてはちきれんばかりの胸元に吸い寄せられるのは致し方ない。
　そして一番下から出て来た破廉恥でいかがわしい雑誌も見て見ぬふりをしながらそっとリーダーをかざし、袋へと詰めた。しかもその雑誌には『カワイコちゃんバニガ特集』なんて書かれていたもんだから、表情には出さないもののなんとも言えない気持ちになる。
　最初はオオカミ男こそレジに持って来たことを後悔していたが、そんな雑誌の表紙を見ないふりして冷静に働く美姫の姿を見るのはグッとくる、というか反応を楽しんでいるあたりセクハラだと思います。
「お会計は……」
　美姫の言う金額を財布から取り出し、支払うオオカミ男。
　どこかぎこちないのはいかがわしい雑誌を購入したせいもあるだろう、多分。
　お釣りを返す際に、美姫の手がそっと添えられる。
（え、この店員さん俺に気があるの！？）
　あの温かな触れ合いは、お客にそう思わせてしまう魔力があるのだ、気を付けて美姫さん！
「あ、それと、オオカミさん」
　急に名を呼ばれ、ビクッ！と身体の動くオオカミ男。
「な、なんだ？」
「これ、よければ貰ってください」
　そう言いながら、どこか恥ずかしそうな表情で美姫がそっとチョコレートを手渡す。
「なんだ、この店のサービスか？」
　はは、と笑うオオカミ男に美姫はそっと首を横に振った。　
「ならば、俺だけに……」
　そう言うオオカミ男に、美姫は視線をそらし、そっと頷いた。だが
「決して本命のチョコなどではありませんが、お友達からなら、ぜひ」
「ふ、ふん。友チョコってやつか」
「えぇ、そうです。なので、お友達ならお願いを聞いて」
　なんだ？とオオカミ男の視線が美姫に注がれる。
「どうか他の人をうさぎにしたり、傷つけないでください」
「……ふん」
　真摯な瞳の美姫、その眼差しを視界に入れないようにしながら、オオカミ男は美姫から袋とチョコを受け取った。
「あ、それと。こちら、おまけのネコチキです。温かいので袋は別にしますね」
　コンビニ店員の気遣いに心打たれながら、オオカミ男は言う。
「相変わらず良い接客だ」
「ありがとうございます」
　美姫は笑みを浮かべ、頭を下げる
「随分前に来た時より、幾ばくかふっくらしたな、古苗木さん」
　そう言うと、オオカミ男は袋を持って店を出ていった。
「あ、ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております……ッ！」
　思わぬ言葉を投げかけられ、美姫の顔が真っ赤に染まる。
（うぅ、やっぱり久しぶりに会うお客さんだとわかってしまうのでしょうか……！）
　以前より更に大きくなった己の胸元を見ながら、そっとため息をつく美姫だった。