寝子高のとある（非）日常｜リアクション

寝子高のとある（非）日常

●戦士の休息所、学食！

　ティオレ・ユリウェイスは、食べ物の良い匂いに惹かれて学食へと足を踏み入れた。
　なお、吉田熊吉先生からは何とか逃げ遂せた模様。流石盗賊。
「くそ、無駄に腹が減った……何か食べるか」
　財布の中にこちらの世界の通貨が潤沢に入っているのは抜かりなく確認済みだ。
　適当な定食を選ぶ。メインのおかずの生姜焼きが、食欲をそそる香りを漂わせていた。
　席に着いて、熱々の生姜焼きを口に運び――ティオレは青の双眸を瞠る。
「う、美味い……！」
　あっという間に定食を食べ尽くして、ティオレは今度は、一気に１０人前の食事を注文。
　それをがつがつと食べ尽くしていく美女の姿は、周囲の目を引きまくったとか。

　リリエル・エーテライトとメリィ・ランページも、学食で一緒にランチタイム。
「？　何の騒ぎでしょう？」
「何だろ？　お祭り？　……それより、リリエルのアップルパイ、美味しそうだね」
「えへへ、午前の授業を頑張ったので奮発しちゃいました！」
　昼食の横に燦然と輝くアップルパイは、２人で協力してここまで乗りきった証！　だから、
「メリィちゃん、半分こしましょう！」
「えっ、いいの！？」
「勿論です！　午後も一緒にがんばリリエル！　です！」
　２人の学生生活は、仲良く楽しく過ぎていく――。

　メーベル・コルテージュとヴェルト・レトランジェもまた、学食を訪れていた。
「そういえば、以前も寝子島でしらす丼を食べましたね」
「ああ、そういえばそうだね」
　メニューを眺めながらメーベルが零すのに、ヴェルトが応じる。
「やはりしらすは寝子島の名物なのでしょうね……ですが、折角の機会ですし」
　俺はここでしか食べられない物を選ばせて頂きましょう、とメーベルは日替わり定食Ｂを選択。
「ふむ、成る程……では、僕はこっちかな」
　とヴェルトが選んだのは、メインのおかずが異なる日替わり定食Ａだ。
　注文の品が乗ったトレイをそれぞれ手にして、手頃な席に向かい合って座る。
　生姜焼きをもぐもぐと口に運んで、ヴェルトは少し感心したみたいな声を漏らした。
「最近の学生にはこういうものが出されるのか。うん、なかなか美味い」
「先生、こちらの白身魚をクリームで煮たものも、美味しいですよ」
「おや、有難う。君も、ほら、食べるといい」
　なんて、おかずの交換っこもしたりして、食事の時間は和やかに過ぎていく。
「しかし、提供のスピードには舌を巻きますね。俺も、あれ位手際よく料理出来るようになればいいのですが」
「あれは、早く出せるよう前もって準備しているんだろう」
　スタッフも複数人いるようだし気に病むことはない、とヴェルト。
　そこまで気にはしていませんと、メーベルはあたたかなお茶を喉に流した。
「なにせ、先生よりはまともな物を作れていると自負していますので」
「君ね……僕より上手くなければ、雇ってる意味がないだろうに」
「なら俺は、先生の料理の腕前に感謝しなければなりません」
「まったくだね」
　軽口の応酬の末に、ヴェルトは軽く肩を竦める。
　そして――ふと、メーベルの制服姿に頭を過ぎった思いを零した。
「学校ね……君ももう少し小さければ入れてやりたかったんだがね。行ってみたかったかい？」
　そうですね……と、メーベルが思案げにエメラルドの眼差しを伏せる。
「行ってみたくなかった、と言えば嘘になります」
「ふむ……そうかい。なら、少し申し訳ないね」
「いえ、己の人生を悔いている訳ではないのです。自分に幼少期というものがあったら行ってみたかった、と」
　なるほど、と、ヴェルトが短く返すのに、
「先生は、学校に通ったことはおありですか？」
　と、今しがた手渡されたものに近しい問いを口にするメーベル。その言葉を受けて、
「僕かい？　うーん……ないよ。ただ、家に司祭見習いだかなんだか、年上の男が来てね」
　勉強を教えてくれたのだと、ヴェルトは語った。
「では、先生も学校は初めて……という訳ですか」
「そうなるね。君と同じさ」
「如何ですか？　初めての学校は」
「なかなか楽しいよ。君はどうだね」
「そうですね……楽しいですよ、とても」
「……そうかい」
　楽しんでるならいいのだけれど、と、呟いて、ヴェルトは少し笑う。
「僕は、煙草が吸えないのが少々不満だね」
「ふふ、たまには控えられてみては如何ですか？」
「それは……難しいな」
　相手の言葉に苦笑いを返して、ヴェルトは学生の味の残りを口に運んだ。

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