寝子島と教室と、制服と私｜リアクション

寝子島と教室と、制服と私

◆寝子島と教室と、制服と私

　2年8組の教室には、窓から爽やかな風と陽光が差し込んでいる。それに髪を靡かせながら、夢宮瑠奈は窓際でぼんやりとしていた。昼休みの始まった教室の中では、生徒たちがざわざわと騒いで各々の自由に過ごしている。瑠奈はその騒がしい様を、慈愛の籠った目で見た。
　彼女にとってのすてきな友達。少し変わった人もいるけれど、瑠奈にとっての大切な人たち。その一人が、廊下をバタバタと駆けるのが聞こえて、瑠奈は教室の戸まで歩き、その外、廊下を覗き込む。ちょうどその後ろを、女子生徒が追いかけていた。

「ばっびゅーん！！」
「ののこちゃん、待ってよー！」
「あはは、早く早くー！」

　それを振り切りながら走るののこのブレザー、そのポケットから、ぽろぽろと何かが零れ落ちる。瑠奈はそれを拾い上げ、彼女を追いかけた。振り向きざまに瑠奈の姿を見て、ののこは足を止める。

「ののちゃん、落としたよ」
「あっ、ほんとだ。ありがとう瑠奈ちゃん！」

　だいぶ離れていた距離を詰めて、少し息の上がった瑠奈が小銭入れを差し出す。ののこはそれを受け取ってポケットに入れ直した。瑠奈はののこの顔を見て、思わず微笑む。

「ののちゃんは今日も元気だねえ」
「どやっ！　毎日楽しいからね！　……あ、パン売り切れちゃう！」

　瑠奈の言葉ににっこりと笑ったののこは、購買の店員の声が響いたために背を向けた。またねと手を振って階下に降りていくののこを見ながら、瑠奈は彼女と過ごした日々を懐かし気に思い返していた。あの頃のように感情が暴走することは、もうないけれど――まだまだ彼女は抜けてるから、追っかけてあげないと心配だな、とも思いながら。

「ちょっと、野々さん？　廊下は走らないでちょうだい」
「え、エレナ先輩！　ごめんなさーい！」

　そして、少し変わったお友達、の代表例といえば、瑠奈の中では剣崎エレナだった。少し一方的な感情ではあるかもしれない。でも、エレナの『寝子高のアイドル』としてのプライドと、そのための努力を、瑠奈は尊敬していた。中断していたダンスを再開して、くるりと回る彼女を見ながら、瑠奈は思う。エレナはエレナなりに、アイドルとは何かというのを、追いかけ続けているのではないかと。

　――あたしはあの人の背中を、見つめ続けている気がする。

　そして、彼女は自分よりも数歩先にいるとも思っていた。瑠奈はエレナの様子を暫くの間眺めていたが、彼女がその場から去るのに合わせて、瑠奈も教室に戻る。

「いっぱいいろんな人を見て、一緒に生きているんだ。って。嬉しくなるよね。」

　教室に戻った瑠奈は、また窓際に立っていた。その顔を、太陽が照らしている。カーテンが風を受けて膨らんだ。瑠奈は眩しい日差しに、少し目を細める。
　その傍に、誰かが寄り添っていた。その“誰か”に、瑠奈は語り掛ける。

「ね、あなたもそう思うでしょ？」

　今度は振り向いて、その“誰か”を確りと見て瑠奈は言った。
　ののこが落ちてきてからの日々は、瑠奈にたくさんの冒険と、青春と、まだ見ぬ世界にワクワクする気持ちを齎した。それが今はすっかり安心に変わって、瑠奈を包んでいる。瑠奈はふわりと笑って、口を開いた。

　だって、ここにいるあなたは、私の大切な人だから。
　だって、ここにいるあなたは、あたしの――。

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あとがき

担当マスター：六原紀伊
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ご参加ありがとうございました。
皆さんと教室と、精一杯書かせていただきました。お楽しみいただければ幸いです。
また、今回多忙により個別コメントをご用意できませんでした。申し訳ありません。

布袋猫の方も、鋭意執筆中です。もう少しお待ちください。
それでは、またご縁がありましたらよろしくお願いします。

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