フード・プレゼン・バトル　〜語れ！　好きな食べ物！〜｜リアクション

フード・プレゼン・バトル　〜語れ！　好きな食べ物！〜

９　水守流によるプレゼン『醤油ラーメン』

「残るはあと二人。では次は水守流さんです、どうぞ！」
拍手が起こる。ここまでくると、会場のボルテージは完全に暖まっていた。
「俺はラーメンをプレゼンするぜ。麺類は数あれど、ラーメン以上にバリエーションが豊富で進化を続けてる麺類はないと断言できるからだ！」
流は確信に満ちた表情で宣言した。
寝癖でボサボサの髪や眠そうな目だが、奥底の眼光は鋭い。
「醤油、豚骨、味噌、塩だけでなく鶏ガラ系、魚介系と、基本形だけでも数多い。麺の太さやちぢれ感も千差万別だ。担々麺、タンメン、ソーキそばなどもあるし、その土地の味というのもある。食べ方も様々で、つけ麺、汁なしのまぜそば、油そばなどもうまい。これに乗せる具材まで含めてしまえば、もはや無限だ」
流は力強く、時折しみじみと語る。
「生命の進化、淘汰、配合をそのままなぞっていると言っても過言ではない。ラーメン日々進化しているんだ！　……しかし、その中で変わらないものがある」
そして、流はテーブルの上に載った一杯のラーメンを指し示した。
——琥珀色に透き通るスープ。表面に浮かぶ油が光っている。チャーシュー、メンマ、なると、味玉、海苔が美しく載せられ、麺を覆い隠している。
日本人がもっとも慣れ親しんだラーメン。
「そう、醤油ラーメンだ。この美味さを説明するのに言葉はいらないだろう？」
そう言って、流は椅子に座り、袖をまくり、割り箸を割った。
「いただきます」
レンゲを手に取り、スープをすする。
「ズズズ……っ！」
あぁ——と、湿ったため息が漏れる。鶏ガラの奥深い風味と醤油の柔らかなコクが絶妙に重なって、胃の奥に染み渡る。
「ラーメンの魅力、それは勢いよく麺をすすることにあり！」
そう言って、麺を思いっきりすする。
「ずぞぞぞぞ！」
決して綺麗な音ではないが、仕方ない。空気と一緒に吸い込むことによって香りが鼻に抜けてより美味しくなるからだ。
口の中で踊る中太麺を噛む。モチモチとした弾力が心地よい。スープがよく絡まっていて、ツルツルシコシコしている。
そしてもうひと吸い。
「ずぞぞぞぞ！」
麺が踊る！　口の中に吸い込まれていく！
「ずぞぞぞぞぞぞ！」
ひたすらすする！
「ずぞぞぞぞぞぞぞ！」
観衆がどよめく。そのあまりの食いっぷりに、強烈に胃袋が刺激を受けている。
「食いてェ……」と、誰かがポツリと漏らした。独り言だったが、その言葉は強力に伝播した。
「ずぞぞぞぞぞぞぞ！」
おぉ……！　とため息が聞こえる。流は（いいぞいいぞ！　響いてる！）と考えながら、（よし、最後の一押しだ……！）と精神を集中させた。
（ろっこん『メシテロジツ』！）
流が心の中で唱えると、観衆から「ら・あ・麺！　ら・あ・麺！」と囃す声が上がり始めた。
その声はボルテージを増していき、最後には店内挙げての大合唱となった。
「ら・あ・麺！　ら・あ・麺!!」
「ら・あ・麺!!!　ら・あ・麺!!!!」
流がラーメンを完食して、プレゼンは終了した。

〜実食タイム〜
時田「ズルルルッ！　ズズズ！　ズルルル！　ズルッ！　ハフハフ！　ズズ！　ングッングッ！　……ぷはあっ！　あ〜幸せ！」
結「ああ、なんだかおかしいです。麺をすする手が止まりません。ラーメンってこんなにおいしかったんですね……！」
あんず「うめーーーーー！　ラーメンうめーーーぞーーーーー！」
瓢「……やるねえ。これはうかうかしていられないよぉ」

ろっこんの効果により会場は異様な空気となったが、オーソドックスな醤油ラーメンの麺・スープ・具の黄金比率の素晴らしさが再確認された。

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