【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅｜リアクション

【修学旅行】サイコロコロコロ、神戸と京都へ行こう！の旅

●１日目　早朝　東京駅
　ゆっくりと遠ざかってゆく東京駅のプラットフォームを、音海なぎさはちらりと一瞥した。
　温かいお茶でのどを潤した後は、駅で買った弁当に手を伸ばす。
　外箱に運勢を占うおみくじが付いた、なかなかに洒落た一品だ。
「『大吉。これから数日間、運勢の絶好調が続くでしょう』……か」
　なぎさは少し濃いめの味付けの弁当を食べながら、おみくじの結果に笑みを浮かべる。
　実際、今日の彼はすこぶる調子がいい。昼食と宿泊のサイコロを連続で当てたからだ。
（料亭に温泉、幸先のいいスタートだ。でも……）
　あまり良い目が出すぎるのも考えものだ、となぎさは思った。持っている幸運を使い果たすような気がして、あらぬ不安を覚えてしまうのだ。
（帰りにトラックに轢かれたりしないよね？）
　まあ考えても仕方ないか、となぎさはリクライニングチェアに背を預けた。
　京都までの所要時間は約２時間半。最近寝不足だったので、少しでも睡眠を取っておきたかった。
（折角の懐石を、寝ぼけ眼で楽しみたくはないからね）
　グリーン車の中はゆったりしたスペースで、ブランケットも貸してもらえる。朝早く起きた人間にとっては、天国のような空間だ。
　測ったようにフィットするコンフォート式の席にもたれ、なぎさはまどろみ始めた。

　新横浜を通過したころには、クラスメートの半分近くが寝息を立てていた。
　いっぽう、寝ずに会話やゲームに興じる者もいる。宇佐見望月と志波武道、そして高梨煉がそうだ。
「まずは昼飯からだな。俺様、絶対料亭当ててやるぜ」
「うう、緊張するなー。もっちー、れんちゃん、３人一緒に振らない？」
「いいぜ。料亭出たら、写メ撮っとこ」
　瞑目し、掌中のダイスに祈りを捧げる望月。
　座席の簡易机を開き、台を用意する武道。
　煉はダイスを睨みつけ、「料亭来い料亭来い料亭来い」と一心不乱に念じている。
「よし、振るぞ」
　武道の一言を合図に、３つのダイスが乾いた音を立てて転がった。
　はたして結果は――。
「もっちー、ニャクド。れんちゃん、ニャクド。俺は……料亭だ！」
「アイエエエエエエエ！？　ナンデ！？　ニャクドナンデ！？」
「あいたた、外れか。これは貯金切り崩して買い食いで確保するしかないな」
　第二ラウンドは宿泊である。望月はいよいよ必死に祈った。
　彼にとって重要なのは、３人一緒に泊まる事。民宿だろうと旅館だろうと構わない。
　とにかく３人一緒に、そればかりを願う。
（３人一緒！　３人一緒！）
　神か仏か、そんな祈りを必死にささげる望月。はたしてダイスの目は――。
「もっちー、旅館！　れんちゃん、民宿！　俺も民宿！」
「アイエエエエエ……おおブッダ、寝ているのですか……」
「マジか……ダメだったもんは仕方ないな、神戸では当ててやるぜ」
　それから３人は、行動中の約束をいくつか交わした。
　昼食はニャインで写真を撮って、お互い情報交換すること。
　最終日の自由時間に備えて、必要なモノと情報を揃えること――。
「最高の旅行にしようぜ」
「ああ、そうだな」
「おうよ」
　今年が高校生活最後の一年。泣いても笑っても、この旅が素敵なものになりますように。

　新幹線組が京都に到着したのは、それから３０分後のことだった。

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