【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■フツウ感覚
　星ヶ丘寮のエントランスに深縹露草が現れた瞬間、周りの女性たちが彼にしっとりとした視線を送った。
　ロングストレートな黒髪は、露草が歩く度にサラサラと揺れ、光に当たればその髪色は美しい青を帯びているのがわかる。
　スラリとした高身長に、切れ長で涼し気な眼差し。
　紳士的な雰囲気ながらも、含みのある妖艶さを孕み……女性たちの視線は露草に釘付けとなる。
　そんな露草が憂いを込めた黒い瞳で、そっと悲哀の色を見せれば、女性達は彼の深く重いであろう悩みに共感の念を抱く程。
　露草は、思った。
（ＧＷは稼ぎ時だというのに……今日はバイトを入れられませんでした……）
　自力で学費を貯めて木天蓼大学の芸術学科に入学するのを目標としているフリーターである。
　更に
（星ヶ丘に来たことはありますが……）
　鋭い眼差しをあたりに向ける露草の姿は、調度品の良し悪しを見極めるかのよう。
（星ヶ丘寮……やはり、高級そうなものが多い……！）
　それはそれは物凄く、ハイソな雰囲気漂う露草であるが、実際に住んでいるのは旧市街のアパートの一室。
　豪華絢爛な雰囲気に尻込みするも
（イラストの資料になりそうなもの沢山でしょうし、今日は楽しみましょう……！お祭りなのですから……！）
　そう決めて、露草は衣装の貸し出し受付へと進んだ。

「ようこそ、星ヶ丘寮へ」
　目の前に現れた小柄な少女、旅鴉月詠。
　英国の魔法使い風の出で立ちの月詠の堂々とした振る舞い、それに対してあくまで冷静沈着に見える露草が対峙すれば、優美な化学反応が起きそうな程。
「着替えを所望するのならば、そこで受付だ。カタログもあるが実際の衣装を見て選ぶことも出来る」
　冷静な表情で、テキパキと露草へと話す月詠。
　ソワソワする露草を月詠はチラリと見
「尚、参加費用はかからない」　
「オー、そうなんデスネー」
　微かに安堵の表情を見せる露草に。
「拘りがなければ私が見繕うが……いかがだろうか」
「それではぜひ、お願いしたいデース」
　少女の申し出に、大きく頷く露草だった。
　露草の姿を上から下までマジマジと視線を送り。
「コーディネートしがいがある」
　口角をクイと上げる月詠であった。

　露草同じく、水上桜もまた、星ヶ丘寮の雰囲気に圧倒される一人であった。
　桜は先日行われたお泊り会にて星ヶ丘寮の一日を過ごしたものの、今日はカーニヴァルバージョン。また印象が異なる。
（やっぱり、未体験異次元ゾーンだわ……）
　開いた口をなんとか塞ぎ、桜はコホンと咳払い。
（猫鳴館も未体験異次元ゾーンではあったけれど）
　恭しく桜へお辞儀する星ヶ丘寮生やスタッフ達。皆気品に溢れ、優美な笑みを称えている。
「さぁ、お客様どうぞこちらへ！」
　苺柄の髪飾りを揺らした星ヶ丘寮生、春姫いちごが案内するままに、着いて行った先には麗しいドレスが所狭しと並べられていた。
（これって一体、いくらくらいするのかな）
　小市民的感覚で桜はドレスたちを見てしまう桜。
　アクセサリー作りを趣味とし、よく手芸店に行く桜だからこそ、わかる。
　ドレスの胸元を彩る石たちは決して偽物ではなく、どれも本物の輝きだ。
（汚したらクリーニング代にいくらかかるのかな……！）
　思わず伸ばした手を引っ込める桜に。
「よろしければ、お手伝いいたしましょうかっ？」　
　沢山のドレスを前に固まる桜に、桜がドレスの多さに迷っているのだと思ったいちご。天真爛漫な笑みと共に、お手伝いを申し出た。
「そ、それじゃあお願いしようかしら」
「はい！」

　着替えの終わった桜を笑顔で見送るいちご。
　それからしばらくして、いちごは気づくことになる。
（……あれ？イベントで使う尻尾がひとつ足りないような……？）
　小首を傾げるいちごであった。

　桜はいちごによる強いオススメもあり、薄桜色の柔らかかなドレスを身に纏った。
　ファーのケープを羽織り、鮮やかな緑色のマスクで目元を飾る。
　普段はあまり着ることのないドレス姿は桜の気持ちを明るくし。
　星ヶ丘寮を気ままに歩きながら、ふと鏡に自分の姿が映れば
（この格好だったら、この間作ったアクセサリーも似合いそうね）
　自作のアクセサリーを思い出す桜。
　星ヶ丘寮内を歩く人々は誰も豪勢なドレス姿で、またそのドレスに見合うアクセサリーも身につけている。
（異次元ゾーンであることには変わらないけれど……）
　アクセサリー作りの良い刺激になりそう、と笑みが零れるのだった。

　気ままに星ヶ丘寮を歩けば、プールに辿り着く。
　夜が更けたらライトアップされるであろうプール、明るい内でも人は多く、あちこちで語らう姿が見かけられる。
（お泊り会の時は屋内プールで泳いだけれど、いったいいくつプールがあるのかしら……！）
　屋内のプールは温水であったが、流石にこちらのプールは常温のようだ。
　水泳部の桜としてはこちらのプールも非常に興味があるが、まだ時期は早いだろう。
（こういう雰囲気は、ただ浸っているだけでも楽しめるものね）
　プールサイドのベンチに座り、辺りを眺める桜。
　見目麗しい建物、装飾。優雅なプール、そして耳に届く柔らかなヴァイオリンの音色。
　いつの間にか、桜の口元には笑みが浮かび。
（せっかくだしダンスパーティーも覗いてみようかしら）
　ご機嫌に、桜は噴水広場へと移動するのだった。

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【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

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