【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■優雅な雰囲気の中で
（噂にたがわぬ華やかさだね）
　サキリ・デイジーカッターが星ヶ丘寮内を穏やかに散策する。
　サキリの姿は騎士風の衣装で、目元はマスクで覆われている。腰には美しく装飾されたサーベルを携え、頭には羽のついた帽子。
　凛々しくも中性的なサキリによく似合い、本物の騎士のような佇まいを感じさせる。
　しかしそんなサキリの仮面の下、彼の赤い瞳はどこか切なさを帯び。
（星ヶ丘寮には初めて来たけれど……）
　サキリの足は美しい旋律を奏でる噴水広場へと向かう。
　そこには煌びやかなドレスや、凛々しいスーツを身に纏った男女が軽やかにステップを踏む姿。
　華やかな彼らの脇をスルリと抜け、手近なテーブルに腰掛けるサキリ。
　すかさず、給仕がサキリの元へと上質な紅茶とお菓子を運んできた。
　ありがとう、と優美な笑みを返してから、サキリは紅茶を口に含んだ。
（そうか……）
　先程から感じる既視感。その理由がわかり彼は思わず目を細めた。
（不思議と懐かしい感じだな、とは思ったけど）
　既視感を覚える光景。
　それは昔にサキリが住んでいた、実家で行われていたパーティー。
（妾の子である僕にとって、あの屋敷には何一つ楽しい思い出なんてなかった）
　ただただ、居心地が悪いだけ。
　パーティー参加者の眼差しが痛い程に刺さっていたあの頃。
（でも、今は違う）　
　寝子島に来たおかげで、僕は楽しい思い出を沢山作ることができたよ。
　まだ日が明るい空に視線を移し、そう呟くサキリだった。

「スッッッ、ゲーーー」
　北里雅樹は口を開いたまま立ち尽くしていた。
　眠たそうな表情をしつつも、雅樹が驚きの感情を現しているのがわかる。
　星ヶ丘寮の煌びやかな雰囲気、闊歩する人々のハイソサエティ感に雅樹は慌ただしく視線を動かしている。
（……はぁ）
　椎井莉鳥はそんな元カレ・雅樹の様子に表情は変えぬものの……そっとこめかみを抑える。
　恋人同士の関係は途切れたものの、腐れ縁とでも言うべきか、二人は度々時間を過ごしているわけで。
「いい加減口を閉じれば。……行くわよ」
　莉鳥が無感情に雅樹へと声をかけ、スタスタと先に進めば
「ちょっ、置いてくなって椎井」
　慌てて莉鳥の後を追う雅樹だった。

　お互いにエントランスで着替えを済ませ、待ち合わせ場所へ向かうと。キリリとしたシックなタキシードで身を包み、紫色の仮面をつけた雅樹が気取って立っていた。
　髪をオールバックに整えられた雅樹は見慣れぬ姿で。
「どう、椎井。俺、似合ってる？」
「……喋らなければ、多少は」
「なんだよそれー」
　唇を尖らせながらも雅樹は莉鳥の姿をチラリと見る。
　長身でスラリとした莉鳥はシンプルな赤のロングドレスに身を包み、肩に掛けられた白いストールは風に揺れる度、キラキラと光を放つ。
　羽細工のついた髪飾りに、莉鳥の目元を隠す銀色のマスク。
　どこからどう見ても、艶のある大人の女性に思えてならない。
　幼い頃から知っているだけあって、お互いに年齢を重ねているのだと実感する。
　恋人の時だったら、自分は彼女の姿を見てなんと声をかけただろう、と雅樹は思う。
　しかし、今の彼女の姿を褒める立場ではないような気もして。
「実は椎井じゃなくて、双子の妹とかだったりしない？」
「……行くわよ」
　何を馬鹿なことを言っているのだろう、と莉鳥はまたも心の中で溜め息をつく。
　だけれど、見目麗しい姿で星ヶ丘寮内を歩く二人は、やっぱり周りから見たらお似合いのカップルに見えるだろう。