【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■最後の一匹
『あぁ！皆さん、夜が近づいてしまいました！しかし、ハンターの皆様も素晴らしい活躍です。残りのオオカミは……一匹！！』
　加瀬礼二の声に寮内は騒めく。
『このまま辺りが闇に包まれてしまいますと……あぁ、残念ながら、皆様はオオカミの餌食となってしまいます！そう、こんな風に……！』
　礼二が指を鳴らすと、弥逢遊琳が装飾と思われる一つのバルーンにそっと針を刺した。
　パァン！！！と弾ける風船からは血の雨……を思わせる真っ赤な薔薇の花弁が舞い落ち、遊琳の黒髪やメイド服を花弁が幾ばくか覆った。
『さぁ、皆様！被害を出さないためにも、残る一匹を探し出してください』
　壇上で礼二が優雅にお辞儀をする。
　残り時間は間もなく、だ。
（あと一匹かぁ……）
　新田樹は、受付場所へと戻ってきていた。
　独自の作戦――わざとお金を落とし、それを拾うために屈む人に尻尾があるか確認したり、人懐こく話しかけ「糸くずが付いている」などで接近してオオカミか確かめる――により、２匹のオオカミを狙撃していた樹。
　残りは１弾。
　せっかくだから、残りの一匹にその銃弾を撃ち込みたい所。
　樹は注意深く周りを見る……そして、一つの可能性に気付いた。
（もしかして！）

　樹は壇上に近づけば、丁度礼二が降りてくるところだった。
　礼二は樹の姿に微笑む。
「このままオオカミ側が勝ちそうですね！」
「どうでしょう、勝負は最後までわかりませんから」
　樹は、対面する礼二に対しろっこん『箱庭（リトルガーデン）』を使用する。
　瞬間、礼二の仮面の下に更に仮面が隠れているのを確認した。
「そうね。あなたの言う事は正しい。オオカミは、負ける」
　礼二は片眉を上げた。
　銃の受け渡しの際に樹の姿を見かけてなかったこともあり、樹がハンターだとは思わなかった礼二。　
　樹が銃を取り出し、構え。
　引き金を引いた瞬間
「おや、失礼」
　礼二の前にするりと立ちはだかった遊琳。樹の放ったペイント弾は遊琳のメイド服を赤く染めた。
「あーー、最後の一発だったのにぃ！」
　悔しそうな表情を見せる樹に、礼二は驚きの表情を見せる。
「遊琳センパイ、大丈夫ですか～」
　心配そうに眉根を寄せる礼二に遊琳は笑む。
「なんてことないよ。さぁ、もうすぐ時間だよ。寮内の風船を割って、オオカミの勝利を告げないと……」
「……そうですねぇ」
　礼二が顔を上げ、檀上へと上がる。時計の針が終了時刻を指し示そうとした、その時
　パァン！と、檀上の礼二にペイント弾が撃ち込まれた。
　白く美しい礼二の衣装の胸が、赤いペイント弾に染まるのを、広場で、また各所に置かれたモニターで皆が見ていた瞬間だった。
「どう？素晴らしく最高のフィナーレよね」
　銃を撃ったのは、シオ・レイゼルオーク。
　闇に隠れながら樹の攻撃を見、礼二が一人の瞬間になった所を狙い……それが命中した。
『……ふ、ふふふふふ！ああ、なんてことでしょう、最後のオオカミも今、倒されてしまいました……！ハンターの皆様の勝利です』
　笑みを浮かべ、パチパチと弱い拍手を打てば、周りの観客も盛大に拍手する。
　それを満足げに見ながら崩れ落ちて行く礼二の演技力に、更に多くの人々の拍手が巻き起こるのだった。

　サバイバルゲームがこうして幕を閉じても、尚鳴りやまない拍手に礼二が立ち上がりお辞儀をする。
（どうせ撃たれてしまうのならば、僕が撃ってやりたかったものだよね）
　にこやかな笑みを浮かべる礼二に、遊琳は指を銃に形にし、礼二へと向ける。
（ばぁん、……なんて）
　朱に染まったメイド服のまま、遊琳は艶やかに微笑んだ。
（ハートを奪う覚悟がない内は、やる事じゃない……か）

　かくして、プチイベント『サバイバルゲーム』は好評の内に幕を閉じたのだった。