【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■銃弾と共に熱いダンスを
　夕暮れ時。
　星ヶ丘寮内に響くサバイバルゲームの始まりに反応する者達の中には、彼女たちもいた。
「……面白そう」
「えぇ」
　花風冴来とエレノア・エインズワースの意見が一致し、二人は配られた銃を手にする。
「オオカミを探して撃て、とのことですが……」
　エレノアはガスマスク越しにマジマジと銃を見る。
　ペイント弾が入っているとは言え、玩具らしくなく重みのある銃身にどこかうっとりとした眼差しを向けている。
「どうやら、オオカミはどこにいるのかわからないらしいわね。そう、変装をしているの」
「まぁ、怖い！」
　冴来の言葉に、エレノアが演技がかった口調でお道化てみせる。
　銃を手にした二人の間に、噴水広場から曲が聞こえだす。
　喜歌劇「こうもり」序曲のメロディに
「そうだ、一緒に踊りませんか、花風さん。そうすれば、恐怖も紛れるかもしれません」
「ええ、喜んで。私と踊って頂戴な」
　スカートの裾をちょこんと持ち上げ、軽くお辞儀をする冴来。
「いつ、オオカミが現れるかわかりませんから。互いに、銃を片手に」
「勿論よ。……楽しいダンスの始まりね」
　二人は互いの手を取り、見つめ合う。
　飛び跳ねるようなメロディに、二人は軽快なステップを踏む。
　冴来の表情は笑みが浮かぶほど。
　二人の姿は、やや噴水広場から離れた人気のない場所で優雅なステップを披露しており。
「あら、エレノア。貴方のお尻には尻尾が生えているみたい」
　穏やかなメロディから、力強いテンポへと変わった瞬間。
　冴来の手に持つ銃からペイント弾が放たれた。
「……おや」
　冴来の手の動きに意識を払っていたエレノアは、その銃を優雅に避ける。
「花風さんのその柔らかなスカートの下にこそ、オオカミの尻尾が隠されているように見えますね」
　ペイント弾を避け、くるりと回転したエレノアがお返しとばかりに冴来へと弾を放った。
　バレエダンサーのようにしなやかな身のこなしで冴来は弾を避ければ
「すぐ勝敗がついたらつまらないでしょう？」
　片手をエレノアへと回し、二人はまたダンスを楽しむ。
　傍目から見れば、優雅にダンスを愉しむ２人にしか見えないだろう。
「もっとこうして踊っていたいわ」
　艶やかな口調で冴来が囁きと共にエレノアへと二発目の弾を放つ。
　激しくなっていく曲調に合わせるように、冴来の弾を避けるエレノア。後ろの木にあたり、青緑色のインクが弾ける。
「どうせ直ぐに終わるかと思いきや、意外と粘りますね」
「最後に勝つのどちらかしらね」
　エレノアが率直な感想と共に冴来へ弾を放つが、銃を向けるエレノアの腕を冴来が優雅に払えば、弾は他方へと流れて行く。
　更に曲のテンポが上がれば上がる程、二人の眼差しは真剣みを帯びていく。
　曲に合わせ三発目を放つエレノアだったが、その弾もまた冴来を捕えることはできなかった。
　そして、曲は終わりを迎えた。

　一曲踊っただけとは言えない尋常ではない疲労感を覚える二人。
　喉を潤す為、エレノアは傍らのテーブルに置かれたグラスをそっと持ち上げた。
「ねぇ。エレノア」
　振り向けば、そこにはマスクを取った冴来。
「私、貴方のこと結構好きよ？」
　冴来の手に持った銃は真っ直ぐに、ガスマスク越しにエレノアの眉間を捕えていた。
　躊躇なく引き金が引かれる。
　が、咄嗟にエレノアはグラスでその銃弾を払い避ける。
　シュワシュワとした液体が弧を描く。
「……Now that's not funny.」
　そう言うと、エレノアは踵を返し闇の中へと進んでいった。
　その姿を、冴来はじっと見続ける。
（貴女が幾ら否定しようと、愛は確かにここに在る）

　その言葉を胸に、冴来はまた仮面で己の眼差しを隠すのだった。