【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆｜リアクション

【三寮祭】星ヶ丘、マスカレード☆

■倶に天を戴かず
　艶やかな青薔薇をいつものように髪に飾り、白くふわりとしたドレスを纏い。
　花風冴来は異国のカーニバルを思わせる星ヶ丘寮内を一人歩いていた。
　周りの者たちがその顔をマスクで彩るように、冴来もまた白をベースに蒼のラインや宝石で彩ったマスク姿で闊歩する。
　お伽話に出てくる姫の如く、浮世離れした冴来の雰囲気は今日の星ヶ丘寮にとてもマッチしている。
（……あら？）
　冴来の視線に一人の人物の姿が目に留まる。
　優美な雰囲気とはまた違う、不穏な空気を纏った人物の姿に冴来は青い瞳を見開いた。
　しかし直ぐにゆっくりと瞳を閉じ、平静を取り戻した。
　冴来はその人物にゆっくりと近づく。
「こんにちはエレノア」
　ライトグレーのスーツに、重厚感あるガスマスク姿。
　背格好は勿論、この場所にそのような服装をしてくるのは彼女としか考えられない。
　自信を持って笑む冴来に
「よく私だと分かりましたね、花風さん？」
　ガスマスクから、くぐもりながらも聞き慣れた声が響いた。
「身に纏った雰囲気が他の人とは違うもの。ご一緒させてもらっても？」
「えぇ、勿論」
　ガスマスクにより表情は見えないが、友好的な声色を向けてくるエレノア。
　二人はしばし、星ヶ丘寮内を散策する。
　二人の間には静寂が訪れていた。
　祭の喧騒すら彼女たちの耳には届かぬ程、二人の間に張りつめる、見えない緊張。
　その緊張の糸を遮断するように、冴来は言葉を発した。
　眼差しは、遠くを見据えたままに。
「不条理劇を好む貴女と嫌う私。表面的には真逆だけれど……」　
　口を開けば悪趣味なジョークを発するエレノア。
　豊かな感情を持つ冴来にとっては眉根を寄せる言動も数多く見られる。
「……きっと根本は同じよね」
　エレノアには顔を向けず、冴来は淡々と言葉を発する。
「だから、私はこうして貴女に惹かれてつい近寄ってしまうのだわ。他にパーティを一緒に過ごしたいと想う人がいるにも関わらず」
　冴来は一人の人物の姿を頭に思い浮かべる。
　しかし、今日の冴来にとってはエレノアと時間を過ごすことこそ優先されるべき事項だった。
　ガスマスクにより、エレノアの表情は見えない。いや、見る気もない。
「私とあなたが似てるかどうかは……まあ、考え方次第というところでしょう。……が、いずれにしてもあなたは同族嫌悪を抱くタイプだと思っていましたよ」
　エレノアの言葉に表情も変えず。冴来はくるりと優雅にエレノアに向き直る。
「ねぇ、貴女。自分を不完全だと思った事はない？」
　エレノアの動きが止まる。畳みかけるように冴来は更に言葉を紡ぐ。
「それを不安に感じたことは？ ……私はあるわ。今も、そう」
　瞳をやや伏せる冴来。そんな彼女に向かって、エレノアはハッキリと通る声を発した。
「確かに、今の私は不完全です。ただ、不安は特にないですね。……完全になれば良いだけです」
　その言葉に。冴来はふんわりと笑んだ。
「私達二人共、いつか完成出来るといいわね。尤も、私が完成したとしても、貴女はそんな私を見て不完全だと嗤うのでしょうけど」
　冴来の言葉に、エレノアは笑った。
　ふ、くふふふふ、とどこか狂気さえ感じられる声がガスマスクから洩れる。
「何を言ってるんですか？完成した存在が２人もいたらおかしいでしょう？」
　エレノアは両掌を向けた。
「倶に天を戴かずというわけです」
　一緒にはこの世に存在してはならない、そんな関係を現すエレノアの言葉に冴来は仮面の下の青い瞳を強張らせるのだった。