異世界へ行こう！｜リアクション

異世界へ行こう！

「……ここは？」

　花風冴来は気がつけば見知らぬ森の泉にいた。
　辺りを見渡せばそこは幻想的な風景。宙を遊ぶように舞う小さな妖精。リラックスした様子で寛いでいる幻獣。
　そんな光景を見て、冴来はここが異世界なのだと理解する。

　しかし、だからと言って、今の彼女に何かをする気力は湧いて来ない。
　そのまま泉の畔に座り込み、ただぼんやりしていると先程から楽しそうに飛んでいる小さな妖精達が話しかけてきた。

「こんにちは。何処から来たの、ウィンディーネ。泉の妖精。あたし達のお友達」

　そんな風に言われて冴来は今更ながらに自分の姿を確認すると、確かに水の精霊とか妖精と言われるに相応しい姿となっていた。

「ぼんやりしているのね。魂を無くしてしまったみたいね。水に還ってしまうのかしら」

　くすくすと笑いながら、妖精達はくるくると楽し気に宙を舞う。
　ウィンディーネは泉の妖精。恋をすれば魂を得られる代わり、恋した男性に傷付けられるような事や裏切られることがあれば水に還ってしまうという。そんな伝説を冴来は聞いた事があった。

　冴来には憧れて、恋した人がいた。心から愛しくて、大切で。日を追う毎にその想いは強くなっていったのだ。
　彼との距離は物理的に遠くて。でも、彼の為ならどんな苦難でも冴来は耐えられると思ったのだ。

　彼がそれを望むならいつまでも待ち続けようと。自分ならばそれが出来ると信じていたのだ。
　しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

　冴来が思っているよりもずっと冴来が弱かったのか。それとも、想いが強いが故に会えない現実が重く圧し掛かってしまったのか。
　遠く離れ連絡のつかない日々に疲弊し、向き合えない想いに心は摩耗していく。

　漸く会えた時の悪気のない軽口にすら、心は傷ついていく。そんな日々にもう嫌だと。もう止めようと思ったのは、果たして冴来が弱いからなのだろうか？
　しかし、少なくとも冴来はそう思っている。自分の心が弱いからなのだと。
　だから、この場合、裏切ったのは……。

　そんな暗くて辛い想いに冴来は囚われる。
　何故なら、彼の事が本当に好きだからだ。心から好きだからだ。

「ねぇ遊びましょう？　歌いましょう？」

　しかし、そんな冴来の考えている事など知った事ではないと言うように、明るい妖精の声が聞こえてくる。
　くるくると冴来の周囲を舞って、自分達と遊ぼうと誘ってくる。

　更には冴来の返事を聞かずに、歌を歌い踊り出す始末。
　だけど、その楽しそうな姿を見て、冴来は自然と癒されるような気がした。そして、自らも妖精達に合わせるように唇に歌を乗せる。

　冴来が歌い出したのを見て、寛いでいた幻獣達まで彼女や妖精達の近くにやってくる。中には冴来の直ぐ傍で寝っ転がる者までいたりして。
　少しずつ。少しずつ。彼女の心が少しずつ軽くなっていく。

　あぁ、こんなに楽しいのはどれだけ振りだろうと冴来は思った。
　そんな風に楽しいから、つい水を操り空に水魚を泳がせて遊んでみたりして。何となく出来ると確信していたが、これこそがこの世界におけるウィンデーネとしての冴来の力だ。

　宙に浮かぶ水魚を見て、妖精達は楽しそうにはしゃぐ。中にはその水魚に跨る者まで出たりして。
　穏やかで、幻想的なその光景は冴来が満足するまで続くのであった。

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