＜月華＞悲しきアイに終止符を｜リアクション

＜月華＞悲しきアイに終止符を

　＊：＊：＊：＊：＊

「サキリ殿！　我が主、蓮采から預かりし剣を持ってまいりました！」
　その言葉で、サキリは我に返る。朱雀族の男性は、声高らかにそういうとサキリに頷くと包みを解き石の剣を彼に手渡した。かつて白虹が使っていたという『天に嘶く者』という剣である。
「ありがとう」
　サキリは何か役に立つかもしれない、と思い蓮采に貸してもらえないか相談していた。だが、ここまで時間がかかってしまったのだ。
　石の剣を手に、サキリは祭壇を目指す。あの龍が降臨したならば試しにかざしてみるつもりだ。かの龍の中には白虹がいるらしい。彼ならば、この剣の石化を解く事ができるはずだ、と。
　刀は儀式の中心を見つめていた。あの瞬間、確かに帳の過去を見た。おそらくそれは、この儀式陣にいるすべての人間が見たのだろう。
「帳……お前は……」
　帳の感情から見えた過去に、刀はため息を突いた。それでも、刃を帳に向けず、儀式陣の周りを駆けて敵を屠る。
（だったら、尚更刃を向けられない）
　僅かに眼を向ければ、その心に寄り添うように真央たちがいる。放心した帳を支える陽太と真央、彼女の手を握る瑠樹の姿が見える。
　蛇那伊とサキリが、亮が道を作ってくれた。
　紫と美咲紀が傷を癒してくれた。
　夏夜と修が作戦や注意点を皆に与えてくれた。
（だけど……これだけは破壊させてもらう）
　刀はそれをなすべく脳裏に撃鉄を落す。

（時は来た）
　武道は天に嘶く。戦場一杯に広がった声に、空気が震える。こんな状況で援軍は求められない。魔物はサキリと亮が、兵士達が相手している。その近くで美咲紀が舞い、２人の傷を癒していた。

「助太刀する！」

　遥斗が息を吸い、思いっきり竹刀を振り下ろす。同時に、人の姿に戻った武道が、綺麗な装飾のされた扇子を広げ、大きく天に向かって円を描いた。

（空がよどむものなら、その空を浄化しよう）

　――強風に煽られ、渦を巻く風花。

　かつて刹弦が落し、武道が拾った扇子。それを彼は使用し、身体になじんだ白虎族の力とともに舞い踊った。それにあわせ、己のろっこん『風の篭手』を発動した遥斗の力もあり、天へと上った風の流れは、とぐろをまく灰色の雲へとぶつかった。

（浄化の力を乗せた吹雪がまざり、やがて浄化の雨が降り注ぐように）

　そして、黒い石の破片が儀式陣に降り注ぐ。その正体は、瓢が進化能力を使い放ったろっこん『悋気の独楽』によって巻き上げられた石人形の破片である。
（なんか、ちょっと危険だったけど……、俺の起こした風が周辺の敵も弱らせているみたいだし、結果オーライかもな）
　武道は優雅に舞う。雪が、遥斗の送る風に、瓢の巻き起こす砂嵐に押し上げられ、雲が軋む。合間に見える雷も、少しはましになっただろうか？

（皆の助けとなるように、皆が思いをぶつけることに集中できるように）

「もう一度！」
　遥斗が、祈りと気合を込めた声を放ち、風を起こす。それを好機と睨んだ修が、ろっこんの追加能力で聖水が入った容器をゆっくりと動かし、『分解』した。上昇気流に聖水はのぼり、徐々に細かくなって降り注ぐ。
　武道は祈る。大切な仲間を、帳を想って。その大きな流れを龍のように練り、渦巻く天へと突き動かして。

――この空の下が悲しみにあふれているなら、せめて俺は笑顔を振りまこう！

　武道の舞いは、静かに続く。だが、その力強く、清らかで、切実な願いの篭った舞は、ありとあらゆる感情をも凌駕する。
　灰色の雲が、祈りの雪と水を、気流を飲み込み、変色する。徐々に白くなる雲は、風に散らされて流れていく。その向こうにあったのは、幾つもの星。そして、白銀の光が降り注ぐ。

　――ベキョッ！

　そんな中、派手な音を立てて祭壇が真っ二つに割られる。正体は、『加速』し月長石の刀をふるった刀の一撃だった。