特異点Ｎ？　渾沌祖霊島寝子島｜リアクション

特異点Ｎ？　渾沌祖霊島寝子島

◆第十二節聖なる杯

　ぶつぶつと生えたその目がキラリと光ると、閃光が走り、神霊たちが傷を負う。さらに、近付くと触手による一撃が襲った。
「強い……！」
「なんだありゃ、迂闊に近づけねえ！」
　現状、魔神相手に防戦一方となっている状態だった。このままでは徒に消耗し、全滅することだろう。優は自らの掌を見て、その手に宿った魔法、その力を思う。
「隙を作らねぇと、どうしようもないか……」
　そして決意を込めて、立った。
「カノン。アレを使う時が来た」
「君、まさか……」
「……確実に当てるには、近づくのが一番か」
「あれに！？　無茶だ！」
　カノンの制止を振り切って、優は魔神の触手に跳ね飛ばされながらも、接近する。
「こうなったらやるっきゃねぇんだ！」

　懐に潜り込んだ優は、魔神の身体にその手を翳した。
「わりぃが、俺達は帰らせて貰うぜ……！」
　優の手の先に、術式が展開される。すると突然、魔神の動きが止まった。

「柱の動きが……」
「止まってる」
　一瞬の隙、そこですかさず、五月が動いた。
「ふっふ。これも吾妻さんのおかげですね。では……」
　五月が薙刀を地面に刺し、呪文を唱え終えると白色の空木の花が舞う。その花弁に触れれば、身体は軽く、剣勢は鋭く。力を漲らせる奇跡の花だ。
「さて、皆さん今のうちに」
　花弁を身に浴びつつ、優は着地するとカノンに振り向いた。
「今だ！　やってやれ、カノン！」
　カノンは絵筆を振りかざし、詠唱する。
「――さあ、君の旅路を描こう」
　無数の風景画が浮かぶ美術館のような世界が展開された。その空間に浮かぶ、風景画。そこに描かれているそれ――深海が実態をもって、魔神を襲った。
「『キャンバス上の旅人（クローバー・ヴィジョン）』！」
　世界の中、風景に捕らわれた魔神が溺れゆくのを背に、カノンは言う。
「……よい旅を」

　断末魔の後、魔神の消えた玉座の間。激戦の跡も何もないそこで、優が安堵の息を吐いた。カノンの手には、今しがた魔神から取り出した杯がある。
「やれやれ……終わったか」

「戻りましょう、皆さん」
「そうね、ここも崩れそうだから――」
　突如、地響きと共に、城の壁、床に大きく罅が入った。優と骸は冷や汗をかきつつ、口を開く。
「やべぇんじゃねぇか？」
「走れ！　走れ！」
　魔術師が、神霊が城を駆ける。最後の一人が城を出た途端、それは無残にも崩れ去った――。

「回収、ご苦労だった。拠点に戻るぞ」
　猫がまた、にゃーんと鳴いた。

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