夢から出てきて！｜リアクション

夢から出てきて！

土曜日の学校帰り、佐藤瀬莉は寝子ヶ浜海浜公園で道草していた。理由はなんとなく。真っ直ぐ家に帰る気分ではなかったのだ。
「ん？」
　ふと前方を見ると、ドリンクの自販機があった。駆け寄ってみると、何故だか無性に飲み物が欲しくなり、気づけばお金を入れて、缶ジュースを購入してしまっていた。
「ゆめめサイダー？　新製品？　……ま、いっか」
　近くのベンチに座り、それを飲んでみる。
「あ、美味しい」
　と、肩に手を置かれた。瀬莉は反射的に顔をあげる。
　そこにいたのは清楚なワンピース姿で落ち着いた雰囲気の女性だった。年の頃は二十代後半だろうか。
「あ……あなた……Sophia？」
　Sophiaは微笑んで頷いた。
「え、あ……本当に？　どうして？　これ夢なの？」
　瀬莉が戸惑っていると、Sophiaは手を差し出してきた。
「少しお散歩しましょう」
「う、うん」
　未だ状況はよくわからなかったが、Sophiaと話ができている、それだけで嬉しくなってきた。とりあえず瀬莉は今この時を楽しむことにしたのだった。
公園を一緒に歩きながら、瀬莉は前から気になっていることを聞いてみることにした。
「ねぇ、Sophiaはどこで作られたの？　あたしのところへ来るまではどこにいたの？」
「元々はスイスよ。スイスの時計工房。作られてから五十年近く経つかしら」
　なんとなく、それ以上は話したくなさそうで、自然と会話が止まってしまった。
「……えっと、スイスってどんなところ？」
　Sophiaは遠くを見て、目を細めた。
「景色、山や湖がとても綺麗なところよ」
「へぇ、行ってみたいな。Sophiaの生まれた国」
　すると、Sophiaは驚いたようにきょとんとした。
「生まれた？」
「だって、生まれ故郷でしょ？」
　Sophiaは、はっとしたように笑った。
「ええ、そうね。ありがとう」
「こっちこそありがとうだよ。今日、お話できてよかった」
「ふふ」
と、空に雲が広がった。やがてふわふわのお菓子やマシュマロが雨のように降り出す。
「わあ、これも誰かの夢なのかな」
　そして、西の空に大陽が沈む、それと同時にSophiaの姿がすうっと半透明になった。
「あ……」
「そろそろ時間みたい」
「うん。楽しい夢だったな」
「私もよ。ねぇ、また壊れたら直してくれる？」
「もちろんだよ」
　そうしてSophiaは西日に溶けるように消えていった。

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