春宵の候、三寮お泊り交流会｜リアクション

春宵の候、三寮お泊り交流会

●猫鳴館へようこそ・５

「ただいま。すまない、探検が楽しくてすっかり遅くなってしまった」
　豪が台所に姿を現したのは、時子と解理が食後の洗い物をしていたときだった。
「おかえりなさい。ジビエカレーと山菜スープが残ってますよ……」
「ありがたい！　腹が減ってたんだ」
　豪は夕食にありつきながら、あれこれ地下の様子を話したりする。
　鳶色彦に会えなかったという話をすると、時子が、
「ねずの社を覗いてみましょうか」
　と言った。
　ねずの鳶色彦は、ちかごろめっきり姿を見ないが、台所の床下収納の中にあるドールハウス風の『ねずの社』にはときおり現れるようで、お供えしておくと食べ物がなくなっていたりする。
　床下の戸を開けて、小皿に盛った山菜スープを差し入れる。
「鳶色彦さん……？」
　時子が呼びかけると、社の中から小さな人影がそっと顔をのぞかせた。
「こんなところにいたのか！　久しぶりだな」
「お久しゅうございます」
　鳶色の髪をみずらに結い、古墳時代っぽい白い衣装を纏った鳶色彦は、豪と時子を覚えていた。
　以前見たときより大人びて精悍になったようだ。
「元気だったか？」
　鳶色彦の存在を知ったのはちょうど１年前のことだったか。豪は懐かしくなりいろいろな話をする。
「一人は気楽だが……彼女とか欲しいとは思わないのか？」
「それが実は……」
　どうやら気になる相手が出来たらしい。鳶色彦もすこしずつ大人の階段を上っているようである。

◇

　お風呂は女子陣たっての希望で、裏寝子温泉を使わせてもらった。
　いちおうシャワーやドラム缶風呂もあるのだが、女子たちは断然温泉を選んだ。
「お風呂が温泉ってぜいたくよね～」
　一日びっくりし通しだった碧南は、スク水を借りて湯の中で手足を伸ばす。
　ぶくぶくと鼻先まで湯につかり、碧南はぼんやり思う。
（先輩は卒業まであと１年、それまでに先輩に自分の想いを告白できるのかな……）
　葉月や時子も湯の中でゆったりと目を閉じている。
　この温泉は、いい温泉だ。

◇

　湯上りは、大部屋でわいわいおしゃべりをしたり、カードゲームをしたり。
　フード被るとニワトリの顔があってトサカもあるニワトリパジャマを着こんだ時子や、パジャマと言うよりゴシックドレスという葉月がいて、ふつうのパジャマの碧南や美弥子が却って浮くような気がしないでもない。
「でも、ま、こういうのって楽しいね」
「うん。他の寮では味わえないね」

　猫館生も代わる代わる大部屋に顔を出し、猫鳴館は夜遅くまで賑やかだった。

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