にゃんこのがっこう、はじまるよ～！｜リアクション

にゃんこのがっこう、はじまるよ～！

　三毛猫のオサム（八神修）は寝子島高校に来ていました。実習『人をメロメロにするテクニック』を選んだ彼は、学生さんに相手にしてもらおうと思っていました。学生さんなら時間の余裕もあるので、構ってくれそうです。なかなか賢いにゃんこです。

　寝子高に着いたオサムはぽてぽてと敷地内を散策します。するとオサムの鼻を、不思議な匂いがくすぐりました。
（何の匂いだろう？）
　オサムが匂いのする方へ歩いて行くと、何か容器を持った女の子がベンチに座り、溜息をついています。それは家庭科同好会に所属している七夜あおいです。オサムはその女の子の元気のない瞳が気になり、そっと近付いていきました。

『どうしたの？』
　オサムは女の子の傍まで行くと、みゃあと小さく鳴きました。あおいはオサムに気付くと目をくりんとさせ、微笑みました。
「わぁ、可愛い三毛ちゃん」
　オサムは一目でこの可愛らしい女の子が気に入りました。だからこそ、ちょっと元気がないのが気になります。
『元気出して？』
　オサムはあおいの足元に頭をすりすり。別に実習のためではありません。本当に、この女の子の力になりたいと思ったのです。
　あおいは「人懐っこい猫ちゃんだぁ」とオサムの頭を撫でると、ひょいと彼を抱き上げました。
　突然の事にオサムは焦りました。でも暴れたりなんかしません。
『ねぇ、一体どうしたの？』
　みゃあと鳴くと、オサムはあおいの手をそっと舐めました。あおいは嬉しそうにオサムを抱っこします。オサムはあおいの首元にすりすりと頭を擦りつけました。この女の子は、とってもいい匂いがしました。
　上手に撫でてくれるあおいに、オサムは喉をゴロゴロ鳴らして甘えます。

　あのね、水浴びして綺麗にしてるから、ノミも居ないよ
　ふわふわとお日様の香り、するでしょ？
　だから、安心して抱っこしてね
　きっとぽかぽかだよ　にぁん

　可愛らしいオサムの仕草に、あおいはふふと微笑みました。
「ありがとう、猫ちゃん。何だかとっても元気が出ちゃった。私ね、調理実習がイマイチうまくいかなくて落ち込んでたんだけど……」
　そう言うとあおいは「あ！　そうだ」と横に置いていた容器をごそごそ。そして掌に何かを載せて、オサムの前に差し出しました。
「棒々鶏を作ったの。これはささ身を茹でたやつ。これなら猫ちゃんも食べられるよね」
　オサムは瞳を輝かせて、ありがたく頂きました。それは茹ですぎてかなり固くなっていましたが、オサムはこんな美味しいささ身は食べた事がないと本気で思いました。
『ありがとう！　とっても、とっても美味しいよ！』
　元気よくにゃんにゃん言うオサムに、あおいは目を細めました。
「気に入ってもらえて良かった！　実はタレをバニラ麻婆味にしてみたんだけど、誰も食べてくれなかったんだよね……」
　戦慄するような言葉が出てきましたが、幸いオサムは猫でしたので、相手が何を言ってるかは分かりません。美味しく楽しい時を過ごした後、オサムはあおいに向かって言いました。
『君に出会えて、良かった！』

（メロメロテクもご飯も合格、と……）
　にゃんこ学校の卒業生はオサムの評価票に『合格』のハンコを押すと、小さく首を振りました。
（あの容器から出ていた辛いんだか甘いんだか分からない匂いは凄まじかったんだが……あの生徒はよく平気だったな）