にゃんこのがっこう、はじまるよ～！｜リアクション

にゃんこのがっこう、はじまるよ～！

『講義を聴いたからには実際試さないと身につかないのです！』
　道の隅っこで、パステル三毛猫ミサキ（椿美咲紀）は、そのチャーミングな瞳を期待にキラキラと輝かせておりました。
『グレイくん、がんばろーね』
　ミサキは隣りにいる灰色猫グレイににっこりと微笑みます。グレイも嬉しそうにうん！　と頷きました。２匹は『人をメロメロにするテクニック』を選択しています。

『でもさ……誰に試す？　これだけ人がいっぱいいると分からないよね』
　グレイが心配そうに言います。けれどミサキは『大丈夫なのです！』と言うと、得意げにしっぽをピンと伸ばしました。
『覚えておられますか？　私が講義中に「にゃんこの匂いがする人間はガードが甘い」と言ったことを』
『……あ、そうだったね！』
　思い出したらしいグレイに、ミサキはパチンと可愛くウインクしました。
『私達の持ち味は人懐っこいトコロ。そこを活かし猫好きな人間をターゲットにするです』
『大丈夫かな？』
　そうは言ってもグレイの瞳は、楽しそうに輝いています。ミサキの話を聞いて、少し自信が出てきたようです。ミサキはにっこり笑って言いました。
『「ウチノコが１番可愛いけど、ヨソノコだってとっても可愛い」と彼らは思っているのです。そしてオヤツを持っている率も高いのですよ……そんな人達は！』

　ミサキとグレイは早速くんくんと鼻を動かして、猫の匂いがする人間を探します。すると、ベンチに座って缶コーヒーを飲んでいるちょっとくたびれたサラリーマンのおじさんを見つけました。
『あの人、猫の匂いがします！』
『うん、僕にも分かるよ！』
　ミサキとグレイはお互いを見てうんと頷きます。そしてとてとてとベンチに近付くと、彼の足元にお行儀良く座り、みゃあと鳴きました。
「うん？」
　ぼーっとしていたおじさんは、今初めて気付いたように２匹を見ます。そして２匹の可愛らしさに、思わず笑みを浮かべました。
「なんだなんだ、可愛いなぁ」
　おじさんは手慣れた様子で２匹をちょいちょいと撫でてくれました。ミサキはその手にすりすりと頬を擦りつけます。そしてとんっとベンチに乗り、もう１度おじさんにみゃあと鳴きました。グレイも慌ててミサキと反対側のベンチに乗りました。おじさんは嬉しそうにミサキの喉の下を撫でてやると、ちょいと膝にミサキを乗せました。
「……あ～、癒やされるなぁ。営業がうまくいかなかったから、余計に癒やされる……」
　おじさんはミサキを撫でながら、温泉に浸かっているかのようにぐでっと力を抜いています。ミサキは目を細めながらも、少し体をずらし、グレイに目配せ。グレイはおじさんの膝をその手でたしたしと叩くと、小首を傾げました。
「お前も乗りたいのか？　はは、嬉しいなぁ。ぜひ乗ってくれ」
　おじさんはグレイも持ち上げ、膝の上に。そして２匹をわしわしと撫でながら、おじさんはポケットに手を突っ込んでごそごそします。出てきた手に握られていたのは、猫用のオヤツでした。
「今日帰ったら家の猫にやろうと思ってたんだが……お前達、食べるか？」
　ミサキとグレイはちょっと顔を見合わせると、とっても元気よくにゃあと鳴きました。

（オヤツまでせしめるとは、なかなかやるな）
　にゃんこ学校の卒業生は２匹の姿を見ながら唸ります。そして文句なしというように、ポポンと２匹の評価票に『合格』のハンコを押しました。