にゃんこのがっこう、はじまるよ～！｜リアクション

にゃんこのがっこう、はじまるよ～！

　実習『ご飯にありつくには』を選択した、ちょっとだけ目つきの悪い灰色のハチワレ猫アヤカ（綾辻綾花）。くうと鳴りそうなお腹を抱え、通りを見つめておりました。彼女は餌をくれそうな人を探していたのですが……。
　急いで歩いている人間達は忙しそうで、タイミングを掴めません。出来れば優しそうな人がいいなと思って観察を続けていると、１人の人間が目に留まりました。
　それは寝子高教師早川珪でした。彼はのんびりとウインドウショッピングを楽しんでいるようで、そのゆったりした姿がアヤカの目を惹きました。彼なら足を止めてくれそうですし、それにとっても優しそうなお兄さんです。アヤカは彼に実習相手になって貰う事に決めました。

『お腹空いてるんです。何か食べ物もらえませんか？』
　アヤカはとてとてと珪に近付くとちょこんと座り、彼を見上げてにゃーにゃーと鳴きました。珪はアヤカに気付くと、優しく微笑みました。
「灰色の猫ちゃん、こんにちは。どうしたのかな？」
　どうやらアヤカの言っている事は、全く伝わっていないようです。アヤカもそれは感じ取りましたが、すぐにご飯が貰えるとは彼女も思っていません。彼の足に頭をすりすり。そしてもう１度彼を見上げ、にゃあにゃあと鳴きました。
「随分人懐こい猫ちゃんだな。目つきは鋭いけど……ふふ、可愛いなぁ」
　珪はよしよしとアヤカの頭を撫でてくれます。アヤカはその手に頬をすりすりすると、そっと甘噛みをしました。本当にそっと。
『あのね、撫でてくれるのは嬉しいんですけど……私ご飯が欲しいんです』
　アヤカははむはむとその手を噛んではじっと彼を見つめます。スカイ先生も言ってました。お腹が空いたアピールは諦めちゃいけないと。
　珪はじっと見つめてくるアヤカの瞳を見ながら考えているようです。すると珪の目が大きくなりました。
「ああ！　お腹が空いてるのかな？　それなら……」
　珪はアヤカの頭を一撫ですると、立ち上がってすぐ傍の店に入ってしまいました。
（え、何で行っちゃうの？　忙しかったのかな……）
　まさか店に入る訳にもいかないアヤカはすこしうろうろしていましたが、ショボンと項垂れながら座りました。どうやら実習は失敗してしまったみたいです。
　すると、頭上からさっきのお兄さんの声が聞こえました。
「お待たせ。猫缶でよかったかな」
　トンとアヤカの目の前に置かれたのは、封が切られた猫缶。アヤカが信じられない思いで顔を上げると、珪はよしよしと撫でてくれました。
「あいにく僕何も持ってなくてね……コンビニで売ってて良かったよ。ほら、お食べ」
『あの……ありがとうございます！』
「ふふ、どういたしまして」
　言葉が通じないはずなのですが、この時はなぜかアヤカはこのお兄さんが言ってる事が分かる気がしました。アヤカは珪の手にゴロゴロと喉を鳴らしながら顔を擦りつけると、元気よく猫缶を食べ始めました。

（優しい人に出会えて、良かった）
　アヤカは珪を見上げ、にゃあと鳴きました。―――また、この人に会いたいな。

（ふむ、猫缶を買わせるとは。人間のチョイスが良かったな）
　にゃんこ学校の卒業生はアヤカの評価票に『合格』のハンコを押しました。