にゃんこのがっこう、はじまるよ～！｜リアクション

にゃんこのがっこう、はじまるよ～！

　道行く人間を、緊張した面持ちで眺めるにゃんこがおりました。かーさ（恵御納夏朝）です。
　毛並みふわふわな橙白猫のかーさ。かーさが選択したのは『人をメロメロにするテクニック』。この可愛い見た目だけでも人間はメロメロになってしまいそうですが、真面目なかーさはちょっと不安でした。そのぷにぷにの肉球を頬に当て、思わず考えてしまいます。
（人間さんをメロメロに……癒やす事はできるかな……？）
　その時ドタッ！と大きな音がしたので、かーさはびっくりして思わず毛を逆立てました。
（な、なに？）
　すると足元にころころと缶コーヒーが転がってきました。誰のだろうと思って通りを見ると、大学生くらいのお兄さんが、メガネをずらしながら盛大に転んでおりました。

「ああ、すみませんすみません！」
　お兄さんは膝をつきながら、通行人に荷物を拾ってもらってペコペコと謝っています。かーさはそんなお兄さんの足元まで缶コーヒーを転がして運ぶと、ちょいちょいとお兄さんのジーンズをひっぱりにゃあと鳴きました。
「え、猫？　……あ、僕の缶コーヒー！」
　お兄さんはびっくりしながら缶コーヒーを拾い上げます。そしてパチパチと瞬きをしながら「……君が拾ってくれたの？」と言いました。
　かーさは勿論人間の言葉は分かりません。でも何となく自分がした事を訊かれた気がしたので、にゃあと返事をしました。するとお兄さん。突然ガクリと肩を落としてしまいました。
「猫にまで荷物を拾ってもらうなんて……どうして僕はこんなにダメなんだろう……」
　かーさはびっくりしました。突然目の前の人間の気が、弱いものになったからです。
（どうしたのかな？　大丈夫かな？）
　かーさは心配してお兄さんの周りをうろうろ。お兄さんの足に頭を擦りつけ、優しく「みゃあ」と鳴きました。

「……心配してくれるの？」
　お兄さんはまだ少し元気はありませんが、よしよしとかーさを撫でてくれました。かーさはその手に顔をすりすりすると、ぴょんとお兄さんの膝に飛び乗りました。
『お兄さん、大丈夫？　元気出してね』
　かーさはそう言って、優しくお兄さんに寄り添います。お兄さんはしばらくかーさを撫でていましたが、やがて独り言のように話し始めました。

「僕さぁ、何やってもダメなんだよね……」
「にゃあにゃあ」
「バイト先でも失敗しちゃうし」
「……にゃあ」
「でもね、店長はすごくいい人なんだよ！」
「にゃあ！」

　かーさが絶妙なタイミングで合いの手を入れるので、お兄さんは猫と話しているようです。するとかーさは自分の薄桃色のぷにぷに肉球を、そっとお兄さんの頬に当てました。
『あのね……とっておきだよ。元気出してね』
　かーさはその白い手でお兄さんの頬をぷにぷに。お兄さんはぶわっとメガネの下に涙を浮かべると、かーさをぎゅうっと抱きしめました。
「君はとっても優しいね……ありがとう！」

（人間の心に寄り添うとは……素晴らしいな）
　にゃんこ学校の卒業生は、お兄さんとかーさの姿を見ながらちょっとうるっとしてしまいます。そしてかーさの評価票にしっかりと、『合格』のハンコを押しました。

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