ある誰かとの帰り道｜リアクション

ある誰かとの帰り道

（今日も、いっしょに帰りたい……）
スピカ・フォーツには、好きな人がいる。未だ告白はできていない、鷹司凜太郎だ。一緒に下校したくて、スピカは凛太郎の教室へ足を運んだ。

「……今日、ちょっと……買い物、したい気分……。一緒に、来てくれる……？」
そうスピカが誘ったのは、好きな人と少しでも一緒にいたかったから。
だが、凛太郎はもちろんそれを知らない。
（春先は何故か変質者も増えるし、心配だから寮まで送り届けよう）
そう考えての一緒に下校だった。

スピカと凛太郎は、元々１年の時のクラスメイトという間柄だった。しかし、こうやって一緒に帰ったり、話したりするようになったのは２年に上がってからだ。
なんとなく妹と雰囲気が似ているから、放っておけなかった。
そして気が付けば、徐々に共にする時間が増えてきている気がする

「あの、スピカ君……？」
今日はなんだか、スピカと凛太郎の距離がいつもより近かった。近いというか、完全に密着している。
商店街での買い物中、神魂の影響もあってスピカは凛太郎の腕にくっついていた。
本人たちに自覚はなくても、傍から見れば完全にリア充デートである。

スピカ自身としては、一緒に帰って、こうしてくっついていられるだけで幸せだった。
「あったかい……ずっと、こうしてたい……」
「ああ。そうだね。今日は４月にしては風が冷たいし……こうしていると暖かいね」
凛太郎自身も、なんだか人肌恋しい気分になっている気がする。
（スピカ君がこうしてくれるの僕もなんだか嬉しいし、帰り道はしばらくこのままでいようか）

スピカは、日頃のお礼と好意から贈り物をしようと雑貨屋を巡った。
いくつか見て、目に留まったのは、銀の羽根飾りのついたネックレス。
買って、店を出てから、凛太郎に差し出す。
「これ……リンタロウに、似合いそうって……。受け取ってほしい……」
凛太郎は驚いた表情を浮かべ、スピカ同様、店内で買っていたらしいものを差し出した。
「僕からも、日頃の感謝を込めて。スピカ君に合いそうだと思ったんだ」
それは、銀細工の蝶にブルーレースアゲートとコットンパールを繋いだ、華奢なブレスレットだった。
凛太郎から贈られて、スピカは驚きながら幸せそうに微笑む。
「これ、私に……？　ありがと……！！」
奇しくも贈り合いになって、凛太郎も、思わず笑みが零れる。
「ありがとう、大切にするよ」

別れ際。
「じゃあまた明日」
寮の近くでそう言って、凛太郎はスピカを背中から抱きしめた。そのまま自然な振る舞いのように、スピカの髪に口付ける。
なお、これは神魂の影響である。凛太郎は無自覚だった。

スピカはまだ、凛太郎と離れたくなかった。離れていこうとする凛太郎の腕を両手で引き止める。
「スピカ君……？」
引き止めることに成功すると同時に、スピカは自分の気持ちを凛太郎に打ち明けようかどうしようかと……少しの間、悩んだ。
告白するのはこわい。けれど、このまま何もしないでいては、今までと同じままだ。

「あの、リンタロウ……」
スピカは自分の頬が、身体の中が、熱くなるのを感じていた。
まるで心臓が跳ね上がるようだ。平常よりも早い心音がやけに大きく響く気がする。
「好き……」
抑えきれない想いは、くっつきたい神魂の影響もあって、唇からこぼれ出た。
凛太郎は、そんなスピカの告白に一瞬驚いたような表情をする。
けれどそれは束の間のもので、すぐにふわっと柔らかな笑顔を見せてくれた。
拒まれなかったことに安堵し、スピカも微笑んだ。

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