ある誰かとの帰り道｜リアクション

ある誰かとの帰り道

晴れた午後。映画を見た帰り道。
八神修と椿美咲紀は今日見た映画を思い出しつつ、歩きながら話していた。
美咲紀は興奮して、修に映画の感想を話してくる。
「あのシーンはきゅんとしたのですよ！」
「そうだな。ヒロインを助けたシーンは良かったな」
その声は弾んでいて、修の耳にとってとても楽しいものだ。
「分かりやすい奇跡とカタルシスのシーンではあるな。闇の中のヒロインに手を伸ばし『来い』と叫んだときは、俺でも少し心が動いたよ」
修のその言葉を聞いて、美咲紀はなぜか足を止めた。修も美咲紀に合わせて立ち止まる。
「私があんな風に囚われて居たら、シュー君助けに来てくれますか」

なんて、美咲紀はつい聞いてしまった。
（シュー君なら絶対来てくれるよねと思っているですけど）
「助けるよ」
美咲紀が予想した通り、躊躇することなく、修は答えてくれた。

もし美咲紀がピンチだったら。
聞かれて、想像して。「助けるよ」と躊躇いなく言葉が出た。
（いや、誰でも助けるわけじゃない）
「大切な人が優先だ。万人を助けようなんておこがましすぎるぞ」
実際不可能だしそんな虚言は言わない。言うつもりもない。
見知らぬ誰かを助ける義務もなければ、義理もないのだから。
（けど美咲紀の危機なら……）

修は美咲紀へ手を伸ばした。まるで先程見た映画のワンシーンを再現するかのように。
美咲紀は伸ばされた修の手を、しっかりと掴んできた。修もまた、ぐっと掴む。
掴んだその手は、離さない。
そうして美咲紀を自分の近くへ引き寄せた。
その距離は、とても近い。美咲紀の顔が、少し赤く染まったように見えた。

「シュー君ならきっと私の想像の及ばない方法で助けてくれそうな気がするですよ」
たとえ、世界か助けたい相手かの２択なのだと言われようが。
「何かしら巧い手を考えて『君も世界も自分も全て助ける、冴えたやり方』を編み出してくる気がするですよ」
美咲紀は修のそういうところを、とても信頼している。
「助け方のハードル高いな」
美咲紀のきっとそうだと言わんばかりの言葉に、修は苦笑した。
「シュー君は目的を達成するのに躊躇しない人だと思っているですよ。私だって目的達成にはシビアさ必要ってよく判っているです」
でもウダウダと感情に流されて、何処かにしわ寄せ来るよりその方がずっといい。
何かあったときに、安心して背中を預けられる信頼感はとても大事だと美咲紀は思うのだ。

（確かに効率の良い助け方はするだろうが）
美咲紀の言葉を聞きながら、修は思う。
「手段を選ぶかは状況によるかなあ……」
何かを得るためには、何かを代償にせねばならない
「状況、ですか？」
「大切な人が優先だって言ったろ？」
それは暗に、誰かを犠牲にする選択も、状況によっては選びうることを意味する。
「まぁ俺は、手段のために目的を選ばないこともあるから」
少しだけ、冷えたような眼つきになった修の様子に、美咲紀が怪訝な表情を浮かべた。
「……シュー君？」
「ジョークさ」
くすりと笑って、修はその眼を隠した。手を離して、ジョークの仕草をする。
「ぐーきゅるるる」
タイミング良く、美咲紀のおなかの虫が鳴った。
「さしあたって、美咲紀のおなかを助けるかな。可愛い『ぐー』って音が聞こえたぞ」
修はふっふっふっと笑う。
「では空腹救済計画からヨロシクなのです。ケーキ食べたいですー」
美咲紀は一度離れた修の手をまたしっかりと握った。
修は美咲紀に手を引かれるまま、美咲紀おすすめのスイーツの美味しい店へと歩き出す。
（こういう無邪気なところが可愛いなって思うよ）

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