さぁ走ろう！｜リアクション

さぁ走ろう！

八神修の朝は、飼っている雄の柴犬・カーキーが新聞を咥えて起こしに来るところから始まる。

その新聞の記事に目を通して、身だしなみを整える。
動きやすいウェアに着替えたら、カーキーとのランニングの準備完了。

ランニングする距離は長くない。運動部なら走っているうちに入らないだろう。
けれど、修は無理のない範囲が大事だと考えている。
１年生の春から体力づくりの一環として始めたランニング。
この考えのおかげか、毎日続いている。

（１、２……１、２……）

最初は呼吸のリズムを脳内カウントするけれど、
いい感じに回り始めると、それは次第に消えていく。
姿勢も体が覚えているから、こうなれば自然体で走っていける。

走っている間、ふんわりと頭の隅で色々なことを考える。
朝焼けが綺麗だなとか、風が気持ちいいなとか。
今度の化学は実験があるからアレを持っていこうとか。
肌で感じるものから記憶をなぞるものまで様々。

「おはようございます」

毎朝同じような時間に走っているので、顔見知りがどんどん増えていく。
水やりしているご婦人。各家の前、送迎車の横で待つ運転手。
修と同じように走る人など。
何度も顔を合わせるうちに自然とあいさつを交わすようになった。

いつも走る道を抜け、家に戻ろうとすると、
カーキーがまだ走り足りないといった表情で修を見つめている。

「えっ。もっと？　……よし、この距離じゃ犬にも走ったうちに入らないよな」

カーキーをわしわしと撫でると、修は進路を変更した。カーキーも嬉しそうだ。

「休日だしちょっと足を伸ばすか？」

河川敷まで走れるかな、と目的地を定める。
そこまで走ると家に戻る時間が予定より遅くなるので、その旨を使用人に連絡する。
それが済むと修は屈んでカーキーと向かい合う。

「折り畳みフリスビーも腰ポーチに入ってるから、それで遊んでやるよ」

河川敷に到着すると、まずは少し休憩。
持参していた水を小分けにして飲む。
カーキーには紙皿を用意して、そこに水を注ぐ。

「待て……よし」

修の合図を待ってカーキーも水を飲み始める。
程よく汗をかいた体には水がとても美味しく感じられた。

「お待ちかねのフリスビーだ。そら行けっ！」

掛け声とともにフリスビーが修の手を離れる。
するとカーキーはそれを目で追いながら駆け出し、地面に着く前に見事キャッチ。
それを咥えたまま修のもとへ戻ってくる。
修はカーキーを褒めながら撫でると、また同じようにフリスビーを投げた。

こうして楽しい朝が過ぎていった。

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