さぁ走ろう！｜リアクション

さぁ走ろう！

放課後。
七峯凜乃は早々に帰宅すると、新品のトレッキングシューズに履き替えて再びランニングへ。
街並みを適当に流していたら、気だるそうな、それでいて見間違えようもない後ろ姿を見かける。

鷹虎龍獅である。おそらく学校からの帰りなのだろう。
凜乃はさっそく絡みに行くことにした。少しペースをあげて近づくと声をかける。

「やー、野良犬みたいな背中してっから、すぐ分かんねあんた」

声のほうを向く龍獅。声の主が凜乃だと気付くと、さらにだるそうな表情になる。
嫌な予感がする。まるで顔にそう書かれているかのようだ。

「ちょっとランニング付き合ってよ」
「ランニングに付き合えだぁ？」
「ほら、新しいシューズ買ったんだぜ」
「知らねえよ。ランニングなんて１人でやればいいだろ。俺は帰るぜ、あばよ」

そう言うと龍獅は凜乃から遠ざかるように歩き出す。
しかし凜乃は断られることが最初から分かっていたかのような顔を浮かべる。
その表情のまま龍獅の後に付いていき、ちょくちょく煽る。
ちょっかいを出されるたびに龍獅は鬱陶しいといった様子でやり過ごそうとする。

「ほーら諦めて付き合いな、悪いようにゃしないからさ」
「うぜぇ……」

凜乃の煽りに耐えかねて龍獅は走り出した。
待ってましたと言わんばかりに追いかける凜乃。

「追ってきやがった！？」

さらに走る速度を上げる龍獅。それに合わせるように凜乃も加速する。

龍獅は懸命に走って、なんとか凜乃から離れようとする。
しかし徐々に疲れてきてペースが落ち始める。
そのタイミングで凜乃は龍獅を追い越すと、勝ち誇ったように龍獅にむけてにんまりと笑いかける。

「あぁ！？」

凜乃の表情を見て、龍獅は一気に苛立ちが募る。
負けてたまるかと、疲れた体に鞭打って再びペースを取り戻す。

「お前の走りなんて遅すぎて俺に追いつくわけがねぇんだよ！　バーカ！」
「うんうん、獲物が吠えるのは愉しいねぇ。さぁ仕上げだぜ、ペース上げないと食っちまうぞー」

その後も２人は悪口と煽りの応酬をしながら走り続けた。
龍獅は何度も足を止めることを考えたが、そのたびに凜乃の勝ち誇った顔が脳裏をよぎる。
それを思い出すたびに、絶対に追い越されてたまるかという気持ちに駆られた。

気がつけば帰宅するはずだった家を通り過ぎて、九夜山まで来てしまった。
さすがに疲労の限界が訪れて、龍獅は体を支えきれずそのまま倒れた。
もう喋る余裕も無くなって、結局逃げ切れたのか追い抜かれたかすら覚えていなかった。
その傍には凜乃が立っている。それなりに疲れているようだが、龍獅に比べると余裕が感じられる。
肩で息をしていた龍獅も、次第に落ち着き始める。

「一人暮らしだから、これから疲労困憊で飯の準備しないといけないじゃねぇか」
「要らないよ。今日は『牛猫』で食って帰ろーぜ？　付き合わせたから手間賃代わり、あたし持ちで」
「……しょうがねーなー！　迷惑賃代わりに食べに行ってやんよ！」

龍獅は立ち上がると制服のジャケットを凜乃に投げつける。それを凜乃はとっさに受け止めた。

（まだ夜は肌寒いし、飯おごらせた上に風邪まで引かれたら目覚めが悪い……）
（やっぱこいつツンデレみたいで可愛げあるなー）

それぞれ思うことはあったが口にはせず、２人で晩ご飯を食べに向かった。

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