何色バスタイム｜リアクション

何色バスタイム

■ユーカリ香る

　馴染みのバイト先、オークレイ牧場にて一般的浴室とはかけ離れた風呂場にしゃがみ込む鎌八まもる。
　そこは動物たちの屋外洗い場。
　シャワーの他とても大きなタライ、人の肌に当てたら凶器になりそうな毛並みブラシ等、様々な道具に囲まれたそこで、現在まもるはふれあい動物コーナーの人気者であるうさぎたちをお手入れ中。

「お前らは洗いやすくていいよなー」

　最初は濡れるのを拒否られ暴れられたものの、一度全身濡れてしまえば『もうどうにでもしてー』とピタッと動かなくなる可愛い子ちゃんたちに、イイコだったなと仕上げに水気を拭いてやる。

「はいよ、これで全員おしまい。ほら、あとはお日さんあびてふかふかになってこーい」

　最後の一羽、看板うさぎことホワイトをタオルでもしゃもしゃし終わって。
　洗い場の柵から出してやれば、ぴょこぴょこ嬉しそうに芝生へと駆けて行った。
　柵をすぐに閉めてさて次はと振り返った先に、ぬっと現れ揺れるポニテ。それは文字通りな馬の尻尾。

「アンバー、邪魔するな。後でちゃんと構ってやるから」

　月毛の雌馬がまるでヤキモチかのように、まもるが向かおうとする先、ブタたちの前に立ちはだかり通せんぼ。
　こいつらちょっと大変なんだから集中させてくれよ、と声をかけるまもるも愛情込めてアンバーの胴体をひと撫でしてやる。
　汗水流して１年かけて貯めた、正真正銘自身の力で手に入れた美人もとい美馬へは、当然まもるとて一際情があるもので。
　それでもこの牧場に居る時は、みんな平等に面倒見なきゃなんだ分かっておくれよオークレイ。
　アンバー、意外とあっさりその場をどいた。まもるの言う事を聞いたのか単にスルーしたのかはさておいて。

　うさぎと違い、丸々と広い体格とみっちりとした重みたちが、洗おうとする度逃げるのを力技で方向転換させてを繰り返し、ようやく全てのブタも洗い終える。

「よし、って、洗ったそばからドロ浴びするなよー」

　磨いてやった小太りたちが、我先にと池のそばのぬかるんだ土へゴロンゴロン転がるのを目にして、まもるは諦めの溜息を吐いた。
　まーきもちいいんだろうさ……自然の風呂の方がさ……。
　オレのこの全身運動の意味は、とか考えるのはナンセンス。
　気を取り直して、牛へと近寄ろうとしたまもるの服を、またもアンバーが今度は咥えてグイーッ。

「アンバー、ひっぱるな。お前はさっき綺麗にしたろ」

　そうはいっても毛並みブラシは何度してもらっても気持ちが良いの、とばかりに粘る愛馬を宥める。
　改めて牛たちを全力で洗い出した。

「よーし綺麗になった。あ、あれやろ、牛乳のペーター飲み」

　閃いたことはその場で実行。
　これも牧場で働く特権というか、単に喉乾いたっていうのもある。
　まもる、いそいそと今磨き終えた一頭の牛の下に潜り込むと、そのまま自らの口に向けて乳を出そうと手を伸ばした矢先、『終わったなら休んでいいかしら』とばかりにマイペースな牛がしゃがみ込んだ。
　咄嗟に両腕を顔の前に持ってきて、隙間を作った事であわや窒息は避けたものの。

「う……うおー……脂肪たっぷり普段なら心地よい弾力の海にうずもれて……ってまどろっこしいなオイ、
　おっぱいです、おっぱいに埋もれて死ぬー」

　同じ窒息ならポニテで締め付けられて死にた……、と男らしい正統派かと思いきやマニアのような発言繰り返していたまもるが、お花畑を拝む直前、アンバーがまもるの丈夫なツナギを咥え勢いよく引っ張り出した。

「おー、さんきゅーアンバあああああああ」

　ぼちゃーん！
　指示なしの馬に加減などきかぬ。
　牛の下から抜けたまもるの身体が、宙を舞って洗い場脇にあったカルガモ池に見事にダイブした。

「アンバー、助けてくれたのは礼を言うが、ちとやりすぎだ」

　さぁもう構えるでしょ、と鼻先近づけて来た愛馬を撫でてやりながら、まもるは可笑しそうに笑う。
　ま、オレもビバノンノンてなとこか。
　ついでだ、自分と一緒にもう一度洗われっかー？　とアンバーと共にシャワーの前へぽっくりぽっくり歩く
　一人と一頭であった。

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