装飾譚：アクセサリー「Anne + Mary」｜リアクション

装飾譚：アクセサリー「Anne + Mary」

　あまもり質店に下宿中の御薗井Ｅセレッソが椅子に軽く腰掛けてぶらぶらと足を動かしている。横目で見るカレンダーには、明日の日付に可愛いシールが貼られていた。
（明日のおでかけ楽しみだワ！　遅刻しないようにお洋服を決めようカシラ！）
　早坂恩の柔和な笑顔を思い浮かべながらクローゼットを勢いよく開ける。土を掘り進むモグラのごとく服をかきだし、セレッソの背後に小さな山ができた。

　涼しげな瞳の岡瀬結華は、黒と赤のワンピースが似合うはっきりした顔立ちの美少女だ。球技大会用のバスケットシューズが入ったショップバックを肩にかけ、水色のリボンが付いたピアスを眺めている。
（夏らしくて可愛いピアスだなぁ。私もいつかピアスをあけてみたい……！）
　感情が表情に現れにくいためクールな印象を持たれやすいが可愛いものが大好きである。今だって愛らしいマリンカラーに惹かれて店を訪れていた。
（こっちのシュシュも可愛い。いろんな素材があるのね）
　シフォン、レース、ボタン、デニム……。
　普段は赤を身につけることが多い結華。赤白ストライプのリボンが付いたシュシュが気になる。今日の服装にもぴったりだ。
　せっかくなら、母に色違いを買っていこうかな……と考えたところでクイクイと袖を引かれた。
「チャオチャオ！　アナタ、とってもおしゃれさんネ！」
「チャオ……。ありがとう」
　ボリュームのある赤毛の少女・御薗井Ｅセレッソがにこやかに話しかけてくる。突然のことに戸惑いつつも挨拶を返す結華。セレッソは菜の花色のキャミソールワンピースにカギ編みの白のカーディガンを羽織っていた。
「あなたの服もよく似合っていますよ」
「Grazie！　照れちゃうの！」
　結華が褒めると、セレッソは後ろに手を組み嬉しそうにはにかむ。子供のような笑顔に心が和んだ。
「……それで、私に何かご用でしょうか」
「あっ、そうなの！　あのね、アクセサリーを選ぶの一緒に考えて欲しいノ！　恩センパイが着けるのよ」
　メグミ先輩と聞いて女性を思い浮かべるが、セレッソの視線の先にいたのは優雅な雰囲気の少年だった。
「あの長い三つ編みの人ですか」
「Si！」
「生徒会で会計をやっている人でしたっけ……。あの、もしかしてデート中なんじゃないですか」
　問われ、セレッソの頭頂部から汗がピュピュピュピュピューンと飛び出る。察するに友達以上恋人未満といったところか。
（男の人にアクセサリーを選ぶのは確かに難しいわね。
　中性的な早坂先輩なら、このお店のものはなんでも似合いそうだけど……パパと違って）
　先ほどのシュシュに目を落とし、男性ふたりが身につけたところを想像する。恩は……複雑なくらい違和感がない。父は……違和感の塊だ。罰ゲームにしか見えない。
「ふふ……っ」
「アラッ？」
　思わず吹き出す結華の顔を、セレッソが不思議そうにのぞき込む。
「ごめんなさい。父を思い出したら……早坂先輩と似合うものがあまりにも違ったものだから」
「アナタ、パーパと仲良しなのネ！　ワタシもパーパが大好きヨ！」
　共通点を見つけたことが嬉しいようで、セレッソは軽く握った両手を胸にあてウサギのように跳ねた。

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