装飾譚：アクセサリー「Anne + Mary」｜リアクション

装飾譚：アクセサリー「Anne + Mary」

　楽器ケースを下げた綴柚枝。日本人離れした緑の瞳にきらりと好奇心が光る。
「アクセサリーショップ発見！」
　いかにも女性向けな店だが、社交的で明るい性格の彼には関係ないようだ。鼻歌をＢＧＭに軽い足取りで来店した。
（女性のお客さんが多いな－。眼福眼福。寝子島は可愛い子が多くて嬉しいね）
　男性用のアクセサリーを探しつつ、店内の華やかな雰囲気にも心を躍らせる。可愛い物を見て悩んだり、嬉しそうな顔をする女の子を見るのが好きだ。
　だから、深刻な表情をしてうめいている水上桜に柚枝の視線がいくのはある意味と言える。
「うー。うー。おこづかいが足りない……」
（あ。あの子の近くにあるの、シルバーアクセのコーナーだ。俺、シルバー好きなんだよね。男用もあるかな）
　吊されたシルバーアクセを手に取り確認する柚枝。海賊を連想させるスカルモチーフの新作が出ていた。レザーのバングルも気になるところ。軽く手首に巻いてみる。
（シルバーとレザー、どっちがいいかなー……そうだ！）
「ねえ、ロングのおねーさん」
「……？　私ですか？」
「そう、君」
　柚枝の声かけに桜が振り返る。長い黒髪が扇状にふわりと広がった。切りそろえられたまっすぐな髪は彼女の気質を表しているようだ。水色のふんわりしたブラウスに、紺色のスカート。
（鎖骨の綺麗な子だなー）
　シンプルな装いだが、押し花入りのレジンのネックレスが桜を可憐な雰囲気に仕上げていた。
「突然ごめんね。俺、シルバーとレザーで迷ってるんだ。で、女の子の意見が欲しいなーって。どっちが似合うかな？」
「え……そうですね」
　じーっと柚枝を観察する桜。真剣にどちらが似合うか考えてくれているようだ。ナンパを疑ってもよさそうなものだが、桜のアクセサリーに対する情熱がそれを上回っていた。
「どちらも似合うと思いますが、レザーでしょうか！　明るい茶色が似合いそうです。夏だし白もいいかなあ」
　そう言って、いくつか自分がいいと思った物をすすめた。
「ありがと。じゃ、それ貰っていくよ！
　俺、寝子高２年の綴柚枝。もしかして同じ学校じゃない？」
「あっ。同じです。１年で水上桜と言います」
「合っててよかった。何度か見かけた気がして話しかけちゃった。桜ちゃんアクセ好きなの？　選んでくれるとき、すごく楽しそうだった！」
　人なつっこい笑顔で柚枝に尋ねられ、思わず無防備で頷く。
「はい。作るのも好きなんです」
「へえ！　もしかして、今着けているのも？」
「そうです」
「すごいな。お店で売ってるやつみたいだ！」
　ストレートに褒め言葉を口にできるのが柚枝の長所だ。いつの間にか相手の懐に入り込んでいく。桜との会話に花が咲いた。
「―――で、貝のネックレスが作りたくなってさっき材料を買ってきたんですよ！」
「桜ちゃんの持ってるそれ、手芸屋のだったんだ。作るの楽しいよね。俺は曲作るのが好き！」
「えっ、すごいですね！　そういえば、今持ってるの楽器のケースですよね。ヴァイオリンですか？」
「そそ。これからレッスンなんだけど、先生から遅れるって連絡あってさ。ぶらついてたの」
　言いながら時計を確認し、残念そうに眉を下げた。
「そろそろ行かないとなー。これ、俺のねこったー。気が向いたらこっちでもよろしくね！」
　軽やかに。鮮やかに。
　会計をしながら自身の連絡先を伝えた柚枝は、ひらひらと手を振って店を後にした。
（爽やかな人だったな）
　柚枝のアクセ選びをしているうちに欲しくなったものもある。星と貝殻を組み合わせたシルバーのネックレスだ。いつも身につけているものより大人っぽいデザイン。
（髪をまとめて、去年買ったワンピースに合わせたら……うん。似合うはず！　あ、でもそれだとシンプルすぎるかな。髪飾りもあったほうがいいかも……）
　お財布事情を考えながらも髪飾りのコーナーに向かうと、岡瀬結華がクールなまなざしでシュシュを吟味していた。
（綺麗な人だな－。シュシュを買うのかな？　ネイビーのストライプが夏っぽくていい感じ。うう、シュシュも作りたくなってきた）
　心で泣きながら自分用の髪飾りを吟味し、シーグラスを使った涼しげなバレッタを選ぶ。淡い緑と白がステンドグラスのように寄せられており、浴衣にも合わせやすそうなデザインだ。
（いいお買い物したな。創作意欲もむくむく出てきた！　……もう一回手芸屋さん行こう！　見るだけ見るだけ！）
　お財布は空っぽだけど気持ちは充実している。アクセサリーの入った小さな手提げが跳ねるように揺れた。

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装飾譚：アクセサリー「Anne + Mary」

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