４月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

４月の☆ハッピーバースデー

●４月２８日　―串田美弥子のBirthday―

　テーブルに運ばれてきたフルーツケーキと紅茶に、串田美弥子は目を見張った。
　真っ白の生クリームをデコレートする、きらびやかなフルーツたち。
　中央に載ったホワイトチョコには、『美弥子へ　誕生日おめでとう』とチョコで綴ってある。

「……いいの？」
　美弥子は半ば信じられない気持ちで、向かいに座る少女を見つめた。
　御巫時子。自分と同い年の、恥ずかしそうに俯く小柄な少女を。
「はい……。誕生日おめでとうございます……」
　うっすらと刷毛を掃いたように、時子の頬が赤くなった。

「ありがとう。嬉しいよ」
　美弥子の笑顔に、時子は天に昇る心地になった。
　あれこれ言葉は浮かべども、うまく口から出てこない。
「ふふ……召し上がってください、美弥子さん」
　ようやくそれだけ口にすると、ふたりのパーティーが始まった。

　時子はケーキを食べながら、ふと数時間前のことを思い返していた。
　待ち合わせ場所のシーサイドタウン駅で、美弥子と合流した時のことだ。

――美弥子さん、お誕生日おめでとうございます。

　笑顔の挨拶に、美弥子は一瞬面食らったようだった。
　まさか自分の誕生日を覚えていてくれたとは、思わなかったらしい。
　祝いの席が設けられているなど、考えもしなかっただろう。

（喜んでくれて、本当に良かった）
　名前の書かれたチョコを、恥ずかしそうに口に入れる美弥子を見て、時子はくすりと微笑んだ。
　それからも美弥子は、言葉少なに黙々とケーキを口に運んでいる。どうやら、気に入ってくれたようだ。
「美味しいね、このケーキ」
「本当に。美味しいです……」
　時子は顔を綻ばせた。
　予約して作ってもらったケーキだけに、褒められると我が事のように嬉しかった。
　フルーツの鮮烈な酸味を、生クリームの控えた甘味が程よく包んでくれる。

「あの、美弥子さん。よろしかったら、これを……」
　紅茶を飲みつつしばらく世間話に華を咲かせると、時子はそっと包みを取り出した。
「私に？」
「はい……。プレゼントです」
　ラッピングの中から現われたのは、一振りのドラムスティックだった。
　グリップ部分には、アルファベットで『Miyako』と彫ってある。

「凄い……本当にいいの？」
「はい。軽音楽部のドラム担当とお伺いして」
　消耗品のドラムスティックならば、予備があってもいいだろう。
　そう思って、時子が選んだ品だった。

　スティックを握り、振り具合を確かめると、美弥子は微笑みを浮かべて言った。
「プレゼント、ありがとう。今度、ゼッタイ来て」
「はい。楽しみにしています」
　スティックを振りながらドラムを演奏する美弥子の姿が、時子の瞼に鮮烈に描き出される。
　きっと、素敵な奏でに違いないと思った。

　次の演奏会は、必ず聞きに行こう。
　幸せな想像に心を躍らせながら、時子は紅茶のお代わりを注文した。

このページにイラストを設定する